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【PartA】成瀬茅乃/#A01-01.密やかな楽しみ
本に囲まれることが彼女の幸せだ。
その、手触り……質感。フォント。ページをめくるときの手応え。音。なにもかもを彼女は――愛している。
十畳ほどの室内の、壁沿いと、カウンターから見て縦方向に並べられた棚には本がぎっしり詰め込まれている。本には匂いがある。図書館と同じような匂いが。
それに加えてかぐわしいコーヒーの匂いが香り立つ。併設しているカフェからの香りだ。この古本屋で買ったものを自由に読めるスペースとしている。経営者は別だが。つまり、二十畳ほどのスペースのうち半分が古本屋、残り半分が客席ありのカフェとなっている。
かつ、入り口やカフェの壁沿いに背の高い観葉植物を置き、癒しの空間を演出している。とはいえ、カフェにいる人間はおひとりさまが多く、併設されているのが古本屋という関係上、癒されているというよりかは、思いつめた表情の人間が多い。
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