青い鳥

1/16
前へ
/16ページ
次へ
 大学からの帰り。いつものように電車に乗ってすぐに目を閉じる。  乗り慣れたそこから見える景色も同じで代わり映えがなく、見飽きているからだ。  ふと隣りに人が座った気配に目を開けると、隣りに座ったらしい相手の手がぼんやりと視界に入った。  白い手だ。  日に焼けた自分の腕と比べると、尚その白さが目立つ。  明らかに男の手なのだが、指も細くスッと伸びていて、まじまじと見てしまう。  キレイだ、と単純にそう思った。  モデルか何かか? そんなことを思いながら見ていると、2つか3つ駅を過ぎたところで、隣りのヤツが立った。  何となく、慌てて目を閉じる。  と同時に残念がっている自分がいて、ひどく驚いた。  …どんなに手入れがされていたとしても、あれは男だ。  それとも、自分でも知らないうちに男でもOKになったのか? と想像して────気分が悪くなった。  どんなにキレイだったとしても、やっぱり男はお断りだ。  そしてそこから2駅分。  その日は珍しく自分の下りる駅まで目を開けていた。  その後も、時々その手の持ち主と行き会うことがあった。  人の気配に目を開けると、いるのだ。  行き会う時は、決まって俺の後から乗り、先に下りる。  それも大学からの帰りだけだ。  顔は見ていないから、どんな相手なのかわからなかったが、実のところそいつと行き会うのを密かに楽しみにしていた。 毎日ではなく時々会うのが、非日常的な感じでまた良かった。  だから逆に、顔を見ないようにしていたのかもしれない。  知ってしまったら、すぐに日常の一コマとなり、つまらなくなってしまうから。  まるで片思いのようだ。  そんな風に考える自分がおかしかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加