3人が本棚に入れています
本棚に追加
大学からの帰り。いつものように電車に乗ってすぐに目を閉じる。
乗り慣れたそこから見える景色も同じで代わり映えがなく、見飽きているからだ。
ふと隣りに人が座った気配に目を開けると、隣りに座ったらしい相手の手がぼんやりと視界に入った。
白い手だ。
日に焼けた自分の腕と比べると、尚その白さが目立つ。
明らかに男の手なのだが、指も細くスッと伸びていて、まじまじと見てしまう。
キレイだ、と単純にそう思った。
モデルか何かか? そんなことを思いながら見ていると、2つか3つ駅を過ぎたところで、隣りのヤツが立った。
何となく、慌てて目を閉じる。
と同時に残念がっている自分がいて、ひどく驚いた。
…どんなに手入れがされていたとしても、あれは男だ。
それとも、自分でも知らないうちに男でもOKになったのか? と想像して────気分が悪くなった。
どんなにキレイだったとしても、やっぱり男はお断りだ。
そしてそこから2駅分。
その日は珍しく自分の下りる駅まで目を開けていた。
その後も、時々その手の持ち主と行き会うことがあった。
人の気配に目を開けると、いるのだ。
行き会う時は、決まって俺の後から乗り、先に下りる。
それも大学からの帰りだけだ。
顔は見ていないから、どんな相手なのかわからなかったが、実のところそいつと行き会うのを密かに楽しみにしていた。
毎日ではなく時々会うのが、非日常的な感じでまた良かった。
だから逆に、顔を見ないようにしていたのかもしれない。
知ってしまったら、すぐに日常の一コマとなり、つまらなくなってしまうから。
まるで片思いのようだ。
そんな風に考える自分がおかしかった。
最初のコメントを投稿しよう!