コーヒータイムシンドローム

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 なぜあんな事を聞いたのか?いやその前になぜ話しかけたのか?予想外の返事の前に、緑はまず自分の行動に動揺していた。後から来た客にお冷やを出す時に、グラスがほんの少し傾き、水面が揺れ、ギリギリでこぼれない様子が緑の動揺を小さく示していた。  きっかけは一週間前のラジオ放送だ。 フランク・シナトラが歌う「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン(Fly Me to the Moon)」が流れていた。それを受けてパーソナリティが、もしタイムマシンがあるなら、アポロが月に行ったころのアメリカでこの曲を聴きたいといい、ゲストと話が二転三転の上、タイムマシンはあるのだろうか?という言葉が妙に耳に残ったからだ。  ふと仕事の休憩時間にタイムマシンの事が思い浮かび、スマホでタイムマシンを検索し相対性理論から始まり→勉強→塾→塾の講師?と思われる男性に、頭の中の連想ゲームが繋がっていったのだ。  緑のすっとんきょうな問いかけは、変化球になって返ってきた。 「え?」 緑が固まっていると 「僕タイムマシンに乗った事あるんですよ。」 男性はあまり笑わず、でも穏やかに答えた。 緑は驚き、間髪を入れずに聞いた。 「いつ、どこで、タイムマシンに乗ったんですか?」 「もう15年前ぐらい前かな、大阪のある場所」 ドアが開く音がして店に客が入り、緑は接客に戻った。
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