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体操服、と菊池はメモを取りつつ首をかしげる。どうして算数をしてテニスをするのだろう。
菊池だって大学で教員免許をとり、教育実習もし、採用試験も突破したはずなのだが、専門分野以外はわからない。
できるかもしれないしできないかもしれない事であることは確かだが。
「こういう算数問題、橘さんならすぐ解けそうですよね。彼女、エスカレーター式のお嬢様学校、白雪女子の出身らしいですよ」
「え、そうなの?」
「彼女の着ている白セーラー、あれ白雪のものなんです。めちゃくちゃ高くて可愛くて偏差値高くて、このあたりの女子には憧れですよ」
「はぁ、そんな高いもんならうちの制服として着てくるのも納得だわ」
「……櫻田先生、橘さんはそんな先生みたいな貧乏くさい理由であの白セーラーをうちの学校で着ているわけじゃないと思いますよ」
櫻田の庶民的な感想は、菊池に呆れながらも否定される。橘透は元総理大臣の祖父を持つ成績優秀の新入生代表。そんな彼女の家庭が、服装自由の学校にて節約になるからと前の学校のセーラー服で通わせるはずがない。
「多分自慢なんでしょうね。私は勉強もできて家柄もいいのよ的な」
「自慢したけりゃそのまま白雪にいると思うけどな。その学校については知らないが、性別や家柄の壁がある分、白雪は百花より入るのが難しいんだろ」
「あ、それもそうか」
櫻田は彼女が自慢したいから百花に白雪のセーラー服で通っているとは思えなかった。あれこそが魔法学校に大きな夢を持って入学した、櫻田の天敵だ。勿論櫻田はどの生徒にも教師として振る舞うつもりだが、前向きすぎる彼女と話しているだけでどっと疲れる気がする。
「それにしても魔法の使える総理大臣か。考えたこともなかったな」
「ですねぇ。女性総理大臣ってだけでも実現したことないのに」
「ああ、それに魔法使いともなれば絶望的だ。いくら家のサポートがあったとしても、政治家は男で魔法を使えない人物が多数なんだから」
多数決と考えれば少数派である彼女が勝つ事は難しい。しかし櫻田には彼女がウケ狙いでそういうことを言うとは思えなかった。なぜ、と考えるが深入りしてはいけないと首を振る。
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