魔法基礎

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ため息の混ざる櫻田の言葉の合間。そこで生徒達は胸を張る。この学校の合格に合格するのはとても難しい。魔力検査で万人が基準値をクリアできないというのもある。それでもゆるい基準なので七割の人間は基準値を超える。しかし百花の人気からとんでもない競争率になり、年々レベルが上がっているのだった。 現代における魔法使いはエリートだ。各大学や企業で研究など引く手数多。そこから人気というのも勿論あるし、魔法へのあこがれもある。最近じゃ魔法学校を舞台とした創作を見て、もいう志望者も多い。 そんな競争率の中合格した、秀才達がここにいる。しかし櫻田は決して彼らの判断を褒めはしない。 『ぶっちゃけ、君達はここにいるべきではない。優秀すぎるからだ。その知識や努力は、魔法など関係のない研究施設などで活躍すべきだと思う』 優秀すぎて叱られる、というのはここにいる生徒達にとって初めての経験だった。勉強ができるというのはどこに行っても褒められる能力ではなかったのか。この櫻田にとっては『優秀ならもっと別の進路に行くべき』と呆れている。 『魔法使いは、いつか手のひらを返されるかもしれない職業だ。明日急に魔力を失う事もあるかもしれないし、君達の魔力が社会で役立つ事はないかもしれない。それが積み重なって、いつか国が【魔法使いって大して役に立たないな】となれば、エリートから底辺へと真っ逆さまに落ちるだろう』 櫻田は教卓にある魔法基礎の教科書を持ち上げる。生徒たちも用意した教科書に目をやった。 それは思っていたよりずっと薄い。過去にあった、ゆとり教育と呼ばれる時代の教科書でももっと分厚いはずだ。 『この学校の魔法関連の教科書はとても薄い。それは学ぶことが少ないからじゃない。わかっていないこと、現在全世界で研究して覆ることがとても多いからだ』 長い人類の歴史で、魔法の事を本気で研究した日々はまだまだ短い。他の学問に比べれば生まれたての赤子のようなもので、わかっていない事が多い。だからその変更に耐えられるよう、教科書は最初から薄く作っているし、来年には内容が変わっているのだった。 『君達が学ぼうとしているのはそういう分野だ。優秀な人材を魔法で潰したくはない。今からでもまともで安定した分野を学びたいというのなら、俺は応援しよう』 櫻田は好きでこの学校に来たという生徒を追い出そうとしていた。教師のあまりの言葉に講義室内はしんとする。桜が咲いたばかりだというのに、とても空気が冷えているように生徒達は感じた。 そんな中、女子生徒が挙手する。教育を受けるにふさわしい格好とローブがこの学校の制服だが、その女子はどこかの学校のものか、白いセーラー型のワンピース。それに黒の短いローブをかけている。ふわふわのボブの髪型のせいか、丸く大きな目のせいか、まだ中学生に見えるほどに幼い。ただし姿勢はとても良く、講義室の一番前の席を陣取っている事から誰よりも学習意欲があるようだ。
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