魔法学校の先生は目が死んでいる

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おろしたての黒のローブを羽織った生徒達は皆胸を張って、瞳は期待から輝いていた。 職員室の窓からそれを見て、死んだ目をした男はつぶやく。 「誰か入学式に爆弾しかけてくれないかなー」 男は櫻田賢二という。この百花魔法学園高等学校、魔法基礎担当の教師である。教師として不謹慎すぎる発言に、当然彼の後輩である新任教師は咎める。 「櫻田先生! なんていう事を言うんです。この入学式というハレの日に、在校生保護者業者の人達が協力してくれた入学式に、爆弾なんて!」 熱血なまでに咎めたのは未来予知担当の菊池ナナである。この間まで大学生だった彼女は生徒と同じ、おろしたてのスーツに期待に満ちた目をしている。 「菊池先生、そのスーツ似合ってますね。とても仕事のできる教師らしいです」 「え、そうですか?」 「ええ、スカートのしつけ糸さえなければ」 はっと菊池は体をねじりスカートの後ろ、スリットを押さえた。確かに糸がまだある。教師として働ける喜びでしつけ糸のことなどすっかり忘れていた。 しかし櫻田はいつ気がついたのだろう。まだ菊池は彼に背後を見せていないはずなのに。 「未来予知の先生ですら自分のスーツのしつけ糸に気付けないんです。その事を知ったら生徒も俺みたいに死んだ目になりますよ。魔法学校をモチーフにした創作のせいで魔法学校に対しポジティブなイメージが出来てるけど、できることは限られてそんないいもんじゃないんだから」 「……わかっていますよ。この魔法学校は小説みたいなものじゃないって。でも、国が魔法の存在を認めて、それを役立てられる人材を育てるための施設を作ってくれた。それは私みたいな日陰で生きる覚悟をしていた者にとっては救いで、きっと生徒達にもそうだと思います」 この国が魔法の存在を認め、魔法学校を作ったのは二十年前のこと。以前から魔法といえる存在はぽつぽつとあったが、誰もが迫害される事を恐れ、能力を明かす事もおおっぴらに力を行使することもなかった。 しかし国外では魔法と組み合わせた科学などが生まれ、それが成功している。なのでこの国もそれにならい、新たな技術獲得のため魔法使いを育てる事になったという。 それから二十年。この百花魔法学園は今や入学するだけで将来を約束された、エリート育成学校になっていた。 菊池は幼少期、とある宗教団体で予言者をしていたらしい。親に命じられ未来予知で金を荒稼ぎをして、揉め事が起きるたびに解散し、また宗教をつくっていたという。もちろん普通の子供のように学校に行く事も友達と遊ぶ事もなかった。 それが国が魔法を認めただけで覆る。
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