フェイクファー

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 我が家のカレーは具だくさんだ。  包丁の峰の方で十分に叩かれた鶏むね肉。溶けそうなほど柔らかく煮込まれたアスパラ。嫌いなパプリカの代用品としてのピーマン、それから王道の玉ねぎ、なすび、ニンジン、じゃがいも。様々な野菜を様々なスパイスを組み合わせた汁で煮込んでいく。  とっておきの隠し味は、練乳だ。練乳をいれることで、子供にとっては痛いだけの辛みが、味わうべき辛みに変化する。  スプーンで鍋の中身をすくい、味見をする。完璧だった。  今、今食べないと……! 今がこのカレーのピークなんだ!  奇跡のような場面に出くわし一人で焦っていると、奇跡のようなタイミングでアパートの扉が開いた。「ただいまぁ」気の抜けた声が聞こえる。 「姉さんおかえり! 帰ってきて早々で悪いけど、早くこのカレー食べなきゃ、一番いいタイミング逃しちゃう」  わたしの叫び声を聞いて、自室で部屋着に着替える間もなく台所にやってきたは「え、ほんとう?」とまん丸な瞳を更にまん丸にさせた。 「階段上っているときから、いい匂いするなあって思ってたの。陽乃ちゃんのカレーが、世界で一番美味しいからね。じゃあ、さっそくご飯にしよう」
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