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龍矢の家に着き、呼び鈴を鳴らした。
数秒の後インターフォンから聞こえる龍矢の声。
「――はい」
「龍矢!あの、話がしたい!」
「……」
「お願い!話がしたいんだ!」
ぷつりとインターフォンが切れる音がして玄関が開かれた。
現れた龍矢の表情は暗く、硬い。
「ここじゃああれだから……公園行こう」
「わかった」
重苦しい空気の中先を歩く龍矢の少し後をついて行った。
「龍矢、これ……」
胸に抱きしめていたテープで繋ぎ合わされたラブレターを差し出す。
途端に眉間に皺を寄せる龍矢。
「これ、龍矢、本当なの?」
「何をいまさら……。奈津は俺の想い拒絶したんだろう?」
「ちがっ!俺これ知らなかった!知らなかったんだ!」
「…………」
「龍矢宛てのラブレター、龍矢それ見てすごく嬉しそうな顔してたから、俺、ラブレターの代筆できなくなっちゃって、それで全部断ったんだ。中身も見てない。ただわび状を添えただけ。だからその時にこれがあったとしたら俺は…」
「本当、に?」
「うん!だって龍矢からのラブレターだったら天にも昇るくらい嬉しいに決まってる!」
「え」
「俺がどんな気持ちで龍矢宛てのラブレター書いたと思ってる?俺は龍矢の事が好きなんだ…。だけど龍矢に伝える事なんてできないから、龍矢宛てのラブレター書くのだってわざと時間かけたりして……。ずるい人間なんだ」
「奈津!」
龍矢は俺を力の限り抱きしめた。
「嬉しい……。俺このラブレターつっかえされたと思った。だからびりびりに破いてゴミ箱に捨てて―――」
「これ佐々木からもらったんだ。俺、気づかなくてごめん。傷つけてごめん」
「いや、俺もごめん。奈津がそんな風に思ってるなんて思わなくて。あの俺宛てのラブレターも実は俺が依頼したものなんだ」
「え?何でそんな事」
「お前から、奈津からのラブレターにしたかったから。お前の字で『あなたが好きです』って書いて欲しかった。自分で依頼したのに、偽物なのに俺嬉しくてさ、偽物のラブレターだけじゃ我慢できなくなって、俺からのラブレター奈津の机に入れたんだ」
「龍矢、龍矢……」
俺は龍矢の名前を呼びながら涙をぽろぽろと流した。
悲しくて、じゃない嬉しい涙。
「龍矢が、好き……」
「奈津、奈津が好きだよ」
優しく囁かれ、髪を撫でられる。
撫でられる度に心が震えた。
甘い接触に戸惑い照れるがもう我慢する事も諦める事もしなくていい。
涙で滲む視界の中、龍矢の瞳も膜を張って揺らめいて見えた。
俺がそっと目を閉じると唇に龍矢の唇が重なった。
夢にまでみた龍矢とのキス。
嬉しくて、うれしくて、涙を流しながらはにかんだ。
「かわいい」と小さく聞こえ、額に頬に目元に丁寧に何度もなんどもキスをされた。
ちゃんと龍矢宛に俺の言葉でラブレターを書こう。
偽物じゃなくて、俺の想いを込めた本物のラブレターを。
『あなたが好きです』
-終-
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