君と入れ替われたら

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君と入れ替われたら

『楓真(フウマ)兄さんへ。 急にごめんね。 こんな手紙を見つけてびっくりした? ・・・いや、僕が死んじゃったことが一番驚いているかな。   本当にごめん、兄さんにだけはこれ以上迷惑をかけたくなくて。 こうなったことにはいくつか理由があるんだ』 二年前、楓真の両親は母の不倫を原因に離婚した。 楓真も当然落ち込んだが、父の方が落ち込んでいるに決まっている。 だから一人息子である自分が支えなくてはと思い、今まで強く過ごしてきた。  そして半年前、父が一人の女性を連れてきた。 「楓真。 こちらが新しいお母さんだよ」 すぐに再婚するのだと分かった。 母がいなくなった後の父を見てきた自分からすれば、父が幸せになれるのなら再婚しても構わない。 優しく微笑む女性の後ろに背の低い男の子が立っていた。 「初めまして。 俺の弟になるのかな? 俺は高二だけど、君は何年生?」 「・・・え、僕が男子に見えるの?」 「ん? 当たり前じゃん」 確かに女子に見えなくもないが、服装や髪型からして男子だと分かる。 そう言うと彼は恥ずかしそうにした。 「僕は中学二年生。 名前は燿(ヒカル)」 「燿か。 これからよろしくな」 血は繋がっていないが、弟ができた。 一人っ子だった楓真にはそれがとても嬉しかった。 『まず一つ目の理由。 僕、見た目が女子みたいでしょ? それに声変わりしていなくて声も高いし、性格も女々しい。 ・・・だから、学校でいじめられているんだ。   本格的ないじめではないんだけど、毎日からかわれたりパシリに使われている。 学校に僕の居場所がなかったことが一つ目。 そして二つ目の理由。 兄さんの親戚にも僕は嫌われているんだ。   会う度に『女は卒業できたか? まずは整形しないと、男みたいな凛々しい顔になんねぇじゃん』とか、馬鹿にされて・・・。 それに耐えられなくなったのが二つ目。   そして最後の理由は、兄さんにはあまり言いたくないけど、兄さんの祖父母からも僕は嫌われているんだ。 『男なんだからしっかりしなさい。 女みたいに振る舞わないで。   大切な楓真にまで影響したらどうするの?』とか、兄さんのいないところで言われたりして。 これ以上兄さんの評判を落としたくない。 それが最後の理由』 一週間前、楓真は家へ帰ると玄関にある靴で弟の燿が帰ってきていると考えた。 「ただいまー。 燿、帰っているのかー?」 今日は両親帰りが遅いらしい。 だから兄弟で夕食の準備をしないといけなかった。 だが一緒に作ろうと名前を呼んでみるが返事がない。  耳を澄ますと風呂場の方から物音が聞こえ、不審に思った楓真は慎重に足を進めた。 弟であるなら返事をしないわけがない。 そう思っていたのだが、チラリと見えた姿に弟だと安堵した。  だが風呂場の光景を見て叫び声を上げた。 「燿!」 燿の手首にはたくさんの傷跡があり、そこから大量の血が流れバスタブが真っ赤に染まっていた。 意識がないのか燿はぐったりとしている。  「とにかく止血をしないと!」 バスタオルを取り、キツく二の腕に巻いて何度も名前を呼んだ。 それでも燿が目を覚ますことはない。 「どうしよう、まずは父さんたちに連絡か? いや、その前に救急車か」 冷静な判断をし、何とか燿は一命を取り留める。 そのまま病院で入院することになったのだが―――― 『兄さん、自分勝手なことをして本当にごめんね。 このまま静かに消え去りたかったけど、兄さんは一番僕のことを気にかけてくれたから、この手紙を残した。 この選択に悔いはないよ。  今までありがとう。 そしてさようなら。 兄さん、僕の分まで幸せに生きてね。 燿より』 見つけた手紙を最後まで読み終えた楓真は、くしゃくしゃに握り締めた。 目の前には自殺未遂をしたまま目を覚まさない燿がいる。 両親はおらず二人だけの病室。 手紙は自分宛に残した遺書なのだろう。 病院に運ばれてから気付いたが、燿のズボンのポケットに小さく折り畳まれて入っていた。 ―――どうして、燿だけが辛い目に遭うんだよ。 ―――どうして燿だけが苦しい思いをしなくちゃいけないんだよ。 ―――俺が代わってやれたらいいのに。 ―――俺だったら耐えることができるのに。 一週間経ってもまだ目覚める気配がない。 楓真は燿の異変に気付くことができずにいた。 出会った時から燿は内気で消極的な性格だと勝手に思い込んでいたせいだ。  自分の知らないところでそのようなことが起きているなんて知る由もなかった。 いや、知ろうとしていなかったのかもしれない。 「・・・そうだ、神様に頼もう。 確か近くに、願いが叶うって有名な神社があったはず・・・」 駄目元でもいい。 燿が目覚めるならばどんな手段でも取ろうと思った。 携帯で神社の場所を調べ病室を出る。 「燿、絶対に死ぬなよ」 楓真は神社へと走った。 目的としていた場所まで来ると賽銭を入れ鈴を鳴らす。 「神様、お願いだ! 弟が自殺未遂をしてから一週間。 一向に目覚める気配がないんだ! だから目覚めさせてほしい! ・・・いや、違う。 できるなら、俺と燿を入れ替えてほしい!  もう嫌なんだ、悲しい顔をする燿を見るのは! 俺なら燿の生活に耐えられる! だからッ!!」 ただの神頼みであり、自己満足に過ぎないのかもしれない。 それでも願わずにはいられなかったのは、自分の無力さを何かにぶつけたかったからでしかない。  だからその場に崩れ落ちる楓真はそれで終わりだと思っていた。 「分かった、叶えてやろう」 「!?」 夢だと思った。 都合のいい夢。 だが目をごしごしと擦ってみても、やはりそこには小さな神様のような何かがいるのだ。  本当にこの神が願いを叶えてくれるから、願いが叶う神社だと言われているのだろうか。 戸惑っている楓真をよそに神が尋ねてきた。 「本当に叶えてほしいんだよな?」 「あ、あぁ」 「その望みを受け入れよう。 ただし、その代わりに――――」
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