1021人が本棚に入れています
本棚に追加
第十四章 お見合い
「ただいま」
「あれ? 芳樹さん、もうお帰りですか?」
1月1日の23時、芳樹は郷里の七浦家からさっさとマンションへ戻ってきた。
年始の挨拶に、親類や各界の名士が次から次へとやってくる七浦の家。
家長の父と共に、嫡男の芳樹も挨拶をしていたが、いいかげん嫌になったのだと言う。
「妙なお世辞を喋るしか能のない人間を相手にするより、青葉と一緒にいた方がいい」
「でも、お父様はお困りではないんですか?」
「構いやしないさ。あんな分からず屋」
ソファにどさりと腰を落とし、芳樹は天井を見上げて息を吐いた。
キッチンで、青葉がコーヒーの準備をしてくれる音がする。
「私は、こんなささやかな幸せを願うだけなのに」
私がいて、傍に青葉がいる。
それだけで、満ち足りた気持ちになる。
だが芳樹の父・義人は青葉を婚約者と認めようとしない。
芳樹の母・綾香(あやか)は青葉との結婚を許さない。
はぁ、と何度目かの溜息をついた時、香り高いコーヒーが運ばれてきた。
「お疲れでしょう? 温まってください」
「ありがとう」
青葉は、黙って芳樹を見ていた。
『構いやしないさ。あんな分からず屋』
芳樹の言葉の裏にある事実を、青葉は悟っていた。
(芳樹さんのお父様は、僕との結婚に反対なんだ)
唇を噛んで、耐えた。
身分違いの恋は、青葉自身が一番よく解っていた。
最初のコメントを投稿しよう!