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拝啓
その日も、ワタクシは田所さんの口座に十万円をお振り込み致しました。これで、田所さんへの融資は8回目を超えました。
皆様、お初にお目に掛かります。ワタクシの名前は、伊集院 麗菜と申します。年の頃は、………って、純情可憐な乙女に年を聞くなんてナンセンスですわよ?
………で、今日もワタクシはシャ乱Qの『歩いてる』をハミングしながら歩いて、自分の会社に出勤しておりました。暫く歩いていると、歩道で立ち止まっているお爺ちゃんを発見。何だか狼狽えている様子。ワタクシはふとお爺ちゃんに声を掛けた。
「………お爺ちゃん、どうかした?」
お爺ちゃんは、眼にイッパイの涙を浮かべながら、呟いたの。
「死んだ婆さんからの贈り物の財布を落としてしまったみたいでのぉ………。」
ワタクシは、ふとハンドバッグの中から財布を取り出して、お爺ちゃんに尋ねる。
「………それで、いくら入ってたの?」
そしたら、そのお爺ちゃん。唐突に眉間に皺を寄せて、駄々をこね始めたのよね。
「………お嬢さん。何も、ワシはお金の事で困っている訳じゃ無いんじゃよ。ワシが惜しんでおるのは、財布の方なんじゃ。あれには死んだ婆さんとの想い出がギッシリ詰まっておるのじゃよ。」
そう呟くと、そのお爺ちゃんはワタクシの傍から去って行きました。今頃、こんな御時世になってでも、そんな殊勝な人がいるとは。
………それから、それから?
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