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冬は嫌いだ。
寒いし、雪は降るし、それに、大っ嫌いな行事もあるし。
街を歩けば、いつもは独りでも大丈夫なのに、その日だけは周りにカップルばかりが歩いていて、どことなく浮いてしまう。そんなクリスマスが嫌いだ。そんな行事がある冬が嫌いだ。
そんなことを考えながら私は一人、ため息を吐くと、息が白く変わり、靄のように見える。心の靄。それが具現化したような、そんなため息だった。
また振られた。これでもう何回目だろう。いつも、いつも、冬になると振られる。
どんなに長く付き合っても、冬が来るたびに振られる。春に付き合い、冬に別れる。それの繰り返しだ。
私は冬に呪われているのだろうか。
きっとそうなのだろう。私は冬に呪われている。
「大っ嫌い……」
私は灰色で荒れている冬の海を前に、流木に背を預け、体育座りになるとうずくまる。
痛い。
心が凍てつきそうで、痛い。
涙が凍りそうで、痛い。
体が凍てつきそうで、痛い。
振られるたびに来る冬の海とは、もう、顔見知り以上のような関係だった。
振られると海に行くとは聞くが、それが納得できなかった昔の自分に言ってやりたい。
あんたはこの先、何度も冬の海と対面するんだよ、と。
神様、どうかお願いします。この冬の海に、もう二度と会わせないようにしてください。
なんて、そんな願いが叶ったら、どれだけいい事だろう。
冬は嫌いだ。
寒いし、雪は降るし、それに、大っ嫌いな行事もあるし。
「全部、嫌いだ……」
私は勢いよく立ち上がると、涙を拭い、それからお尻に付いた砂を掃う。
痛い。心はまだ痛い。でも、ずっと痛んでいたらダメだ。
「バカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
私は力いっぱいの大声で冬の海に向かって叫ぶと、荒れている海に向かって走っていく。危ないけれど、でも今はその危機感も分からないぐらい、感情がぐらぐらと揺れていた。
膝下辺りまで海に浸かった所で、冬の凍てつくような温度が全身を襲う。その冷えきった温度に我に返ると、私は「ひっ」と軽く悲鳴のようなものを上げてから、そそくさと退散した。裏起毛のジーパンはびしょびしょになり、一回り暗い色に染まっている。これじゃあ、裏起毛の意味が全くない。
それから一つくしゃみをすると、鼻水を啜る。
後悔がじわじわと押し寄せてきた。恋心の後悔と共に、じわじわと波のように押し寄せる。
すっかり枯れてしまっていたと思った目がまた潤いだし、私はその場にしゃがみ込んだ。
冬の海の温度でさらに心が痛い。体が痛い。
「バカ野郎……」
私は小さく呟くと、鼻水を啜りながら、灰色の海を睨んだ。
すると、ふわっと何かが背中にかかり、私は後ろを振り返ると、知らない男の人が立っている。見た目は日本人なのに、目は藍色に染まっている。
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