プロローグ

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プロローグ

時計の針がそろそろ午前零時を回ろうとしていた。 真田茉莉は、その時計をぼーっと眺めながら、ゆっくりと水滴を流す。針が一秒ごとに進むのを眺めながら、目からまた一滴、二滴と流していた。 午前零時を回れば、明日を迎える。朝を迎える。 茉莉はそれが嫌で、嫌で、たまらなかった。 ———このまま朝なんて、来なければいいのに。 そう心では願っていても、時計は狂わず、刻み続ける。 チクタクと音を立てながら、長針と短針はゆっくりと12の数字へと向かっていった。 一月、冬。 ずっとなりたかった高校の数学教師になって、もうすぐ一年が経つ。 生徒たちが冬休みを満喫している中、茉莉は一人、心を沈ませていた。 ———学校に行きたくない。 そんな言葉がグワングワンと脳内で回っている。 でも行かなきゃいけない。 明日になれば、生徒たちは冬休みが明けて、また学校に来る。そしたら茉莉も授業をしないといけない。 教えることは好きだ。楽しいし、何より相手が分かったときに感謝をしてもらえることが嬉しくてたまらない。 問題は授業じゃないのだ。 茉莉が今抱えている問題は、生徒に対してじゃない。 これは大人の問題だ。 少し前まではまだ子どもだった茉莉にとって、初めての大人の問題である。 時計の針が午前零時を回った。 明日が今日に変わり、茉莉はまた水滴を流す。 心にかぶった灰は冬休みを迎えても、ずっとかぶり続けていた。 そしてふと、思考が魔法にかかったかのように、とあることを思いつく。 この魔法がいつ解けるかは分からない。でもその魔法は、茉莉を助けてくれると思った。 こんなこと、本当はしてはいけないのに。大人になった身として、これはあるまじき行為である。 でも、これで救われるのなら。 茉莉はティッシュで水滴を拭うと、時計を見て、にっこりと笑う。 ———午前零時を迎えたその日、私は学校に行かなくなった。
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