継母にいじめられ

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継母にいじめられ

茉莉はベッドに横たわりながら、外で鳴くスズメに目を向ける。 魔法にかかって、5日が経とうとしていた。 茉莉の心にかぶった灰は、すっかり綺麗になりかけている。あれほど灰で汚れてしまっていた心は、美しさを出そうとしていた。 ここ5日間は、泣いてもいない。茉莉は、すっかり元気を取り戻していた。 だがその傍ら、今、学校はどうなっているのだろうと不安にもなっていた。 授業はどこまで進んだのだろう。 誰が数学を生徒たちに教えているのだろう。 生徒たちはどう思っているのだろう。 他の教師は、校長は、どう思っているのだろう。 いじめていた先輩教師たちは今、どんな気分だろう。 ■□■ 「真田茉莉です。まだまだ未熟者ですが、宜しくお願いします!」 辺りから湧き上がる拍手に茉莉は緊張を覚えながら、頭を下げる。 去年の春、茉莉が教師になった日のことだ。 まるで昨日のことのように鮮明に思い出せる、茉莉にとって大切な日だった。 ずっと憧れていた教師は、思っていたより大変だった。毎日、毎日、残業の嵐。 授業で何するかを考え、授業の資料作りや、テスト作り、宿題の作成や、報告書など。やることはとにかく沢山あった。まだ新人だった茉莉は、担任は持っていなかったが、担任を持つと、さらに仕事量が増えて大変だろう。修学旅行についても考えないといけないし、総合の時間で何するかも考えないといけない。 そう思うと、数学の授業についてだけ考える茉莉の仕事は楽な方だった。 ある程度仕事に慣れ始めたのがそれから3か月が経った日のことだった。季節な夏。中間テストの採点が終わり、夏休みの宿題の作成で教師たちが奮闘している時期だった。 「真田先生ー!」 職員室で茉莉を呼ぶ声が聞こえ、茉莉は振り返ると、複数の生徒がノートを持って、「ここ教えてください!」と明るく言っていた。 「授業では解けたんだけど、また分からなくなっちゃって」 「うん、大丈夫。ゆっくりでいいから、一緒に解こう」 茉莉は優しくそう言うと、生徒たちは満面の笑みで「ありがとうございます!」と言う。 ———それを気に食わない教師がいると知らずに。 ■□■ 「真田先生、ちょっといいですか?」 「はい」 そろそろ夏休みが入る手前の日のことだった。茉莉は一人の先輩教師である佐藤先生に呼ばれ、職員室を出ると、人気がない校舎裏まで連れていかれる。 佐藤先生は茉莉と同じ数学の教師であり、10年以上勤務するベテランだった。だから茉莉は、佐藤先生と話すときは少しだけ緊張する。 今日も、呼ばれた理由が分からない中、茉莉はドキドキしながら、後をついていっていた。 「あの、佐藤先生? どういったご用件でしょうか?」 「真田先生」 「はい……」 「あなた、勤務して、何か月?」 「えっと、まだ3か月です」 「そう。3か月なら、少しは仕事に慣れてきた時期でしょう?」 「はい、お陰様で」 「私も昔は、真田先生みたいだったのよ」 「え?」 「生徒たちから、頼られて、ちやほやされて、周りの男の教師からもちやほやされて」 茉莉は何と返せばいいのか分からず、取り合えず、黙って耳を傾ける。佐藤先生はちらりと茉莉を見ると、体を下から上まで隅々まで見て、それから舌打ちをする。 茉莉は何が起きているのか分からないまま、「え……?」と呟くと、佐藤先生が突然、低いトーンで喋り始めた。 「あなた、少し調子に乗りすぎてるんじゃない?」 「そ、そんな訳——」 「周りも皆思ってるのよ。あなたが調子に乗ってるって」 「え……」 佐藤先生は茉莉をじろじろ眺めながら周りを一周すると、立ち止まって、顔を睨む。 「美人で、教えるのが上手くて、生徒からも評判が良くて、新米のあなたにはとっても嬉しい事でしょうね」 「あの、佐藤先生……私は——」 「あまり調子に乗るのも大概にしなさい!」 佐藤先生が突然大声で茉莉に向かって怒鳴ると、茉莉はあまりにもの気迫に後ろに後ずさる。 すると予鈴が鳴り、佐藤先生はもう一度茉莉を睨むと、それから舌打ちをする。 「何であんたなんかが……」 そう吐き捨てて、その場を後にした。 ■□■ 思い出すだけで、頭痛と吐き気がした。 その日から茉莉は佐藤先生からのいじめに遭った。 毎日吐かれる暴言に、起こったミスの濡れ衣を着せられ、自分の仕事をやるようにも言われ。 世に言うパワハラだった。 茉莉はベッドから起き上がると、ボサボサの髪を手櫛で整えながら、大きく体を伸ばす。 茉莉がパワハラを受けていたことは、誰もが知っていた。校長も、同期も、先輩教師も、全員が知っていた。でも、誰も助けてくれなかった。 灰はどんどん心に降り積もっていき、埋もれていく。 そんなことが続くようになってから、茉莉は午前零時を迎えるのが怖くなっていった。
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