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――言葉の鍵、とでもいうのだろうか。
あまりにも小さすぎる一言で、私の心は崩れ去った。
もうこの人には何を言っても理解してもらえないと諦めてしまった。
その日から私の「好き」は何もかもが空っぽになってしまった。
私は、持っていた緑のストローにふっと息を吹きかけた。虹色の大小様々な球が私の息の量に合わせて溢れ出て、一度沈んで、ふわりと浮き上がる。日光に照らされて極彩色に煌めきながら舞う球は、3歳の子どもの頭の高さを保ってふわりと散り始めた。
「キャーー!」
無邪気な笑顔を惜しみなく広げながらシャボン玉を追いかけていく子どもの姿は本当に嬉しそうで、私は自然と微笑んだ――けれど、心の中はどうしようもなく空っぽで、少し前の過去では感じていたはずの満ちる幸せは欠片も湧かなかった。
何が幸せが。
何が嬉しいか。
何が本当に好きか。
どれが、本当の愛か――
もう、私にはわからなかった。
「ママー! 来てー!」
娘の弾んだ声に、私は「なぁに?」と空っぽの感情を抱えたまま足を向けた。
「これなぁに?」
娘がぷっくらとした可愛い指で示している先には、丸い石が雪だるまのように重なっている置物だった。普段何度も訪れているのに、こんな目立った置物には全く気付かなかった。
「本当だね、なんだろ」
私は娘の目線に合わせるようにしゃがんでその置物を覗き込んだ。娘の目線になると、その置物の上の丸い石にはにこやかな笑顔が描かれているのに気づいた。その慈愛に満ちた微笑みは私の頭の中にとある名前を浮かばせた。
「お地蔵さん……?」
「おじぞーさん?」
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