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「約束したのに、お願いしたのに、どうしていやなことばかりするの」
染まる。黒に。
「もうあんたといたくない。これ以上いっしょにいたくない。私は娘とだけでいたい」
止まらない。黒い思いが止まらない。
「こんな思いを抱えることになるなら、結婚しなきゃよかった!」
手の中の石が、闇のような黒になる。
同時に、私の中にあった冷えたものが消えた感触がした。
「……でも」
「ああ、その続きは言わんとき。わかってるから。ちゃんと、好きも残っとんのやろ」
神様はそう言って顔を上げると、真っ黒な顔に笑みを刻んだ。
「吐いたもんは、ちゃんと捨てや。わしんとこに、捨てにこい」
そう言って、神様は。
何かで、私の視界を覆った。
「――ハ!」
目が覚めると、カーテンの隙間から零れる朝日の眩しさに思わず手をかざした。
どうやら、あのままぐっすり寝て朝を迎えたようだった。
夢見心地の中、妙にハッキリする頭で私は布団から這い出た。よく寝たからか、いつも以上に体が軽かった。食卓を見に行くと、昨日と比べて妙に黒ずんで見える石がそこにあった。
――やっぱり、ただの夢じゃなかった
妙な確信じみたことを思っていると、寝室から物音が聞こえ、足元になにかがぶつかった。
「ママー! おじぞーさん行こー!」
寝起きのいい娘の満面笑顔に、私は笑みを返して「うん、行こうか」と可愛くて愛しい頭を撫でた。
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