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タブラ=ラサの心は壊れない
-機械仕掛けの心-
人間社会にとって、ロボットは必要不可欠な存在である。
人間に従順で、疲れず、力もある。
型が古くなったら変えれば良い。
壊れれば直し、直せなければ捨てれば良い。
「それら」に心などないのだから。
✱
とある上流階級の家に、1体のロボットが加わった。
その家には他にも何体かの雑事をこなすロボットが居たのだが、今回加わったロボットは主に当主の息子のお守りが任務だった。
「坊ちゃん、何か御用はございますか?」
「ううん、特にないよ。いつもありがとう、エルフ」
少年は生まれつき身体が弱く、外に出られる機会はほとんどなかった。
屋敷の者も忙しく、相手が出来なかったため、看病や話し相手が務まるロボットを導入したのだ。
少年はこのロボットをとても気に入り、ロボットの製造番号の最初を参考に「エルフ」と名付けた。
「お礼には及びません。これが私の仕事でございますから」
「ははっ…エルフ、もう少し口調を柔らかく出来ないの?僕ぐらいにさ。
僕は友達としてエルフと話したいんだ。敬語とかやめて欲しいな」
少年はずっとこの部屋にいるため、友達と呼べる存在がいなかった。
だからこそ、主従の関係であってもエルフとは「友達」でありたかったのだ。
「……かしこまりました。
しかし、エルフの言語体系にはない言葉であるため、少しお時間を頂けますでしょうか?」
「うん、分かってるよ。無理を承知で言ってるしね。
楽しみにしてる」
そう言って笑う少年に向かって、エルフは再度深々とお辞儀をした。
✱
数日後、お暇を貰っていたエルフが帰って来た。
エルフは周りの挨拶もそこそこに少年の部屋へと急いだ。
コンコン
「坊ちゃん、入っても?」
「いいよ!」
エルフが入ると、少年は待ちきれないように小走りでエルフに駆け寄り、抱きついた。
「おかえり!エルフ!!どう?習得した?」
「もちろん。とはいえ、まだ完璧ではないけれど…」
少年は顔を輝かせた。
「凄い!話せてる!!やっぱりエルフは天才だね!」
「天才ではないよ。私はロボットだから習得が早かっただけで」
「そういうことにしとく?
じゃあ次は僕だね!エルフが勉強している間に、僕が何をしたのか教えるね!」
主従から友達に。
少年はそれが嬉しくて、何の変哲もない部屋での話をエルフに聞かせた。
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