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✱
翌日、屋敷中が悲しみに包まれた。
少年がこの世を去ってしまったのだ。
当主ももちろん悲しんだ。
しかし、当主はまだ部屋に籠る訳にはいかなかった。
言い方は悪いが、最大の障壁がなくなったのだ。
以降の対応はまるで示し合わせていたように素早かった。
息子が亡くなったという理由でエルフに暇を出し、エルフを作った会社に送り返した。
もちろん、以下のクレーム付きで。
「貴社の製品は不良品だったようだ。息子が気に入っていたので手元に置いていたが、息子が亡くなってしまった今、手元に置く理由がないので返品する。
なお、代金は不要である。その代わり可及的速やかに処分されたし」
これを見て、現状を確認した会社は震え上がった。
少年を亡くしたエルフの様子は、誰がどう見ても人間にしか見えなかった。ロボットという枠を超えてしまっているのは誰の目にも明らかだった。
初期化しても思念のようなものが残るかもしれない。
このようなクレームは二度とないようにしなければならない。当主が言うまでもなく、上層部は処分を決めた。
✱
何をする気にもなれなかった。
自分の身体が引き裂かれていくのを、ぼんやりとした思考で感じた。
背中に衝撃が走る。
視界に太陽が入った。
風も感じる。
あぁ、ここが…
ロボット達の墓場といわれる廃棄場か。
私はどうやら「感情」とやらを持ってしまったらしい。
坊ちゃんはそのことに気付いていたのだろうか。
きっと気付いていたのだろう。
坊ちゃんの葬儀はつつがなく終えられたのだろうか。
あぁせめて、もう一度お礼を言いたかった。
私を「エルフ」にしてくれてありがとう、と。
坊ちゃんにお仕え出来た私はロボット1の幸せ者です。
いつか生まれ変わられた時は、外に出て走り回って…
今より何倍も長生きしてくださいね。
いつの間にか、太陽が消えている。
黒い雲が空を覆って…
雨。
きっと私の体は色々なものが剥き出しになっているのだろうな。
雨が入ったら、私の…意識も…
壊れ…るのかな…
壊れたら…「エルフ」は…
どう…なるの…だろう…
顔を……
水が……伝ッテ…
そうカ……
コれガ……
ナミ…d……
✱
その男は雨など気にせず、一心不乱に「ゴミ」を漁っていた。
「違う…これも違う…違う…違う…」
誰も来ない廃棄場。
その中を動き回る男を注意する存在などなく。
男はふと横を見た。
そこにはボロボロになったロボットがあった。
残っている顔を見る限り、設定年齢は20にも満たない青年のようだった。
「これだっ!!」
何が彼の琴線に触れたのか、それは誰にも分からない。本人にさえ分からない。
しかし本人は嬉嬉としてそのボロボロになったロボットを重そうに抱えて廃棄場を後にした。
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