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✱
目が覚めた。
頭を動かすと、大きな窓が目に入った。
その窓からは柔らかな光が降り注いでいる。
反対側を見た。
誰かがいる。
その誰かはベッドの上にいた。
意識を向けた時、誰かもこちらを見た。
向き合い、しばし沈黙。
「「キミはだれ?」」
「「ボクは誰だろう?」」
なぜか誰かも同じことを言う。
奥の扉が開いて、少しやつれた男の人が入ってきた。
2人が一斉に男の人を見つめる。
「やぁ、起きたかい。
それにしても…2人同時に見つめられると何だか気恥しいな…」
男の人はそう言って頭を掻いた。
「んーと、どうだい?調子が悪いとかは?」
男の問いに首を傾げた。誰かも同時に首を傾げた。
「ふむ、まぁなさそうか。
それなら立ち上がってみてくれ」
ベッドの外の床に足を付け、ゆっくりと立ち上がる。
誰かはベッドを挟んだ向こう側に立っている。
意識を向けると誰かがこちらを向いた。
お互いがゆっくりと距離を詰めていく。
そして…
ぺたぺたぺた
互いに体のあちこちを触っていく。
ようやく分かった。
もう1人も同じく「自分自身」であると。
「「君は僕」」
「「僕は君」」
そんな様子を男は微笑ましい様子で見ていた。
「やはり、1体を2体に分離しても支配系統は1つなのか。
これがこの個体だけの現象なのか、気になるなぁ…」
✱
廃棄場から持ち帰った機械はあまりにも損傷が激しく、修復が難しかった。
そこで、無事だった指示系統の中核を2つに分離する実験を行うことにした。
そして双子のように見た目が同じロボットを作成し、そこに分離させた指示系統を埋め込んだ。
そして僕達が誕生した。らしい。
指示系統が元々1つだったせいか、もう1人の僕は僕の言うことを聞くだけ。
「分身だね」
とあの人は言っていた。
あの人は沢山の機械を作ってきた技術者らしく、今は引退して田舎町の片隅で機械いじりをしている。
でも僕は知っている。
あの人がかつて何を作っていたのか。
見た目は子供だけど、僕はロボットだ。
たまたま目に入った設計図が何なのか、分からないことはない。
それが人を殺すためのものだということも。
でもそんなことは僕に関係ない。僕はあの人と一緒に暮らすだけで十分だった。
あの人との生活は毎日がキラキラと輝いていた。
童話を読んでくれた時、僕は胸が痛くなったり体を動かしたくなったりと落ち着かなかったけれど、その度にあの人が頭を撫でてくれた。
僕がもう1人に頭を撫でて貰っても何も思わないのに、あの人に撫でてもらうとすごく落ち着く。
僕が読んだ本に、「神の手」と呼ばれる人がいるとあった。
きっとあの人は「神の手」を持っているに違いない。
あの人にまた頭を撫でて貰いたいから、今日も僕は頑張る。
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