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舞台になるのはとある小さなサーカス団。
様々な理由で世間から外れてしまった者のために作られた居場所。
ここに明確な流れは存在しない。ただそのサーカス団はそこに存在して、みんな当然のようにサーカス団としての日々を過ごしているだけだ。お話としてわざわざ記すほどのものでもない。わたしがこの世界で暮らすために作っているんだから、この世界にストーリーなんてものは要らないのだ。ありふれた日常生活は、現実という世界は語らないからこそ成立するものなのだ。
そしてわたしはサーカス団の理事。容姿はわたしの理想を全て詰め込んだ。とんがり帽子にすらっとした美しいドレス。紅い口紅がとてもよく際立つ、妖艶な雰囲気の女性。考えただけで震えるくらいの美しさである。
設定をしている時に少しケンカをしてしまって、団長にした「あの子」と会えない設定になってしまったのが少し心残りだけど、気長に探そうと思う。時間は有り余るほどにあるから。
順調に登場人物を設定し、新たな世界に彼らを配置していく。みんなわたしの可愛い子供たちだ。
彼らには自由に動いて貰いたかったから、あまり制限はかけなかった。わたしが作っているのは虚構ではない世界なのだから、あまり縛るのはよくない。みんな自由に踊ってわたしを楽しませてほしい。パトロンのガラス男爵は、今回は上手く行きそうな予感がするって言っていて、わたしは今とても嬉しい。
それでも何か物足りない気がするのはどうしてなんだろう。
やはり所詮は作り物だから?
「もう分かっているくせに」
わたしは小さくそう呟いた。
わたしの世界に招かれざる客がやって来た。どういう方法でどういう目的で来たのかも分からないけれど、わたしは歓迎しようと思う。
だってわたしはこういうのを求めていたから。
わたしの衝動がどうしようもなく喜んでいる。わたしの世界を脅かすかもしれない未知の存在に、わたしが歓喜している。本当にこの衝動はどうしようもない。わたしには止める術を持たない。だってこれはわたしの願望が形となった世界なのだから。わたしの願いに反することは起こり得ないのだ。
現実では予期しないことがある日突然起きる。この世界もとても現実らしくて良いと思う。
このまま順調に行けばわたしの世界はきちんと成立して、わたしはここで暮らせるようになる。そのためのちょっとしたスパイスだと思えば楽しい。
これから始まるのは愉快なゲーム。
順応するか抗うか、2つに1つ。
順応するならとっておきのストーリーをあげる。あなたにぴったりの、美しいストーリーを。
抗うなら強制してあげる。わたしの世界を彩る1つになれと。どちらに転んでもわたしは楽しいから。
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