永劫回帰の外側は何もない

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永劫回帰の外側は何もない

俺には家族がいた。 世界一大切な家族だ。 妻が結婚した時、息子を初めて抱いた時。 俺が責任もって守るって、誓ったのはもう遠い昔の話だ。 この街はおそろしくつまんねー街だ。 娯楽もなけれゃ活気もねぇ、一回だけ灰色の通行人を蹴ろうとしたら俺の脚をすり抜けやがった。つまんねー人形だよ。 つまんねーから考える時間はいくらでもある。 人間は生きててなんぼ、とか言うがこんな形で生かされるなら死んだ方がマシだ。 希望も絶望もありゃしねぇ世界で生きられる人がいたら教えて欲しいくらいだ。 そんな感じで石ころ蹴りながらぶらつく日々を送ってた訳だが、ある日衝撃的な事件が起こった。 人間が居たんだぞ?! それも外から来た人間だ。 ここに外から人間が来るなんて、聞いたことねぇ。出入り出来るのは作者しかいねぇってのに… その若い男は状況がよく呑み込めてないようだったが、それはこっちだって同じだ。とりあえず男爵に見つかったら厄介なことこの上ないし、俺の側に居させることにした。 そいつは名前を古賀祐介と言った。 俺は内心頭を抱えた。勘違いでも何でもなく、こいつは俺の息子なんだと、分かっちまった自分が少し恨めしかった。 俺はペンネームを名乗っていたから向こうは父親だと気付いてねぇようだった。 にしても運命のイタズラはどうしてこうも厄介なんだ。 なぜよりにもよって俺の息子をここに連れて来る? ここはパンドラの箱よりも厄介だ。いい夢を見せるだけ見せて、気付いた時にはいつの間にか毒に侵され消されてしまうような、そういうえげつない場所だ。 一刻も早く祐介を元の世界に帰す必要があったが、正直俺に出来ることは皆無と言っても良かった。この時ほど己が「残りカス」であることを恨んだことはなかった。 世間話にかこつけて色々話を聞いた。 妻も元気そうで何よりだ。 名前を聞かないと分からないほど大きくなった自分の息子が目の前にいることに胸を熱くしながら、残した家族に強いただろう負担を思って心の中で謝った。クズみたいな父親だが、せめて祐介をきちんと元の世界に戻してやろうと、俺は強く誓った。今度はその誓いを破るもんかと己に言い聞かせて。 心配だったし祐介をずっと傍に置くつもりではあったが、男爵を見つけてそうも言ってられなくなった。いち早く侵入者を察知したらしい。まじでワーカーホリックだぜ気持ちわりぃ。 祐介に攻撃されたらやべぇから、とりあえずあいつには反対方向に走るように指示した。 まぁ、あいつも子どもじゃねぇしどうにかするだろ。 それよりも男爵が意外とすんなり諦めたのが、俺にはどうも気になった。 俺の残りカスネットワーク(自称)を使って調べた所によると、どうやら今回の作者は祐介を歓迎するらしい。まったく、更に面倒なことになった。 一見するとあいつの身も守られて良いように見えるが、そんな虫の良い話じゃねぇ。むしろ排除された方が元の世界に帰れる確率は上がるだろう。歓迎されるっていうことは、この世界でおもちゃにされる可能性が高いってわけで… 再会した祐介に俺はその辺りの可能性をしっかりと言い聞かせるつもりだったが、少し手遅れだった。 いつの間にこの世界にあんなに順応してんだか。 この世界に居たって、お前は幸せにはなれねぇ。お前の見てる景色はほんの一部、上っ面だけにすぎねぇし、その下に何があるのかも全く分かってねぇ。そして分かってしまった時点でもう人生終わってるような世界なんだよここは。お前には俺みたいになって欲しくねぇ。いくらお前が現実の世界に幻滅しようと、それでもその世界はお前が存在している場所なんだからどうかそっちの世界で居て欲しい。 今の俺の言葉が通じなかったのが父親としては恥ずかしい限りだ。俺は捨てた身だからな、通じなくて当然っちゃ当然なんだが、世の中の父親はもっと上手くやるんだろうな。 ところでさっきのあいつの言葉で今回の事件の原因が見えてきた。 俺はてっきりなんかの拍子に祐介が来たのかと思っていたが、そうじゃねぇらしい。呼んだのは誰か。 祐介とは少し距離を置いて、犯人探しをする必要があるようだ。
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