1人が本棚に入れています
本棚に追加
今回の作者はマジで頭ぶっ飛んでんじゃねぇかと思う。
使えるものは何でも使うらしい、この残りカスの俺まで「ストーリー」に駆り出された。
そして俺は今ライオンになった祐介の傍にいる。何が悲しくて息子のこんな姿を見なきゃなんねーんだ。
そんなこんなでちょっとやさぐれてた俺の元にサーカスの団長はやって来た。
イカれたピエロの団長は、意外にも何を言うでもなく俺をテントの外に連れ出した。そして振り返って言った。
「さて、サテ。ここまでお連れしたのはリンチしようとした、ワケじゃないですヨ?」
「とっとと用件話やがれ」
団長、もといピエロは大げさに身体を震わせた。
「おぉこわっ!
………ゲフン、もう時間がないのですヨ」
それってまさか…
内心驚いた俺にピエロは耳元で囁いた。
「だからアンタには早急にノートを探してもらいたい」
「俺にも見つけられるか、微妙だぞ?」
俺の言葉にピエロは笑った。
「えぇ、エェ、分かっておりますとも。
正直、猫の手も借りたいくらいの状況ナノです」
残りカスの俺にも協力を要請するレベル、か。俺から見れば人間が一人で考えたお話なんざ現実になる訳がねぇんだが、今の作者はそのあたりもクリアしようとしているらしい。マジかよ。
んで元人間であり、元作者でもある俺の方がノートを見つけられる可能性は確かに高い。確実に見つけられるはずの祐介はライオンになって惰眠を貪ってやがるからな。情けねぇ話だぜ。さすが俺の息子だよ。
「ところで、祐介をここに呼んだのお前だろ?」
ピエロは否定せず、笑顔だった。
「ちゃんと元の世界に返せるんだよな?」
「えぇ、エェ。もちのロンロンでございます。そのためにも血眼になって探してきてくだサイ?」
えげつないこと言いやがる。俺が拒否出来ないのを前提にするとか、ほんと最悪最低野郎だな。
「ちっ。運良く見つけたらどーすりゃ良いんだ?」
「土鳩にでも渡してくだサイ」
「はぁ?」
土鳩だぁ??なんで土鳩なんだよ、てかいるのかよ土鳩。
「アナタを追いかけるように言っときますカラね。ご心配ナク♡」
いや意味分かんねぇんだが。
まぁいい。祐介が助かるのなら何だってしてやるよ。情けねぇ罪滅ぼしだとか言って笑うなら笑えばいい。
「ではデハ、ヨロシクです♡」
ピエロはそう言うとスキップしながら俺から離れていった。
あのピエロの言いなりになるのは何だか癪だが仕方ねぇ。とりあえず探すか。
俺は売れない作家だった。
けど売れる、売れないとかはどうでも良かった。
俺は俺しか知らない新しいものを欲していたし、普通では得られないような「何か」を求めてた。そのための手段として作家があった。
だから俺はよく周囲に何も言わずにあちこちを放浪した。そんな迷惑な俺に、嫁を含めた周囲はよく付き合ってくれたと思う。
要はいつまで経っても俺はガキだった。ありもしない夢を追いかけてはしゃいでるような情けねぇガキだった。
子どもが出来てからもそれは変わらなかった。
いや、変わろうとは幾度となく思った。今の嫁と結婚した時も、子どもを初めて見た時も。
だが変われなかった。その点は今思えば嫁に対する甘えとかいうのもあったかもしれねぇ。
子ども、祐介に関しては俺自身がどう付き合えば良いのか分からず無意識に避けた。子どもってのは全くもって分からねぇ。急に泣き出すわ何やでこっちもどうしたら良いか分からずに泣きたくなるくらいだった。だから余計に俺は逃げ場所を求めた。そうしてふらふらしている時に見つけたのがこの世界だった。
楽しくなかったと言えば嘘になる。俺は確かにこの世界を自分の手で作り上げることを楽しんでいた。まだ誰も知らない世界を作れるんだ、最高だった。そんな俺が我を取り戻したのが、この世界の本質を知ったのが、俺の世界が失敗して崩れた時だった。所詮ムリな話なんだ。神でもなんでもねぇのに世界を作ろうだなんて。こんなことに人生かける必要なんて何処にもねぇ。
そう気付いた時には俺はもう死んでいた。この世界に関わる代償は思ってた異常に重かった。現実世界で生きられなくなった俺はこの世界をさ迷うしかねぇ。ほんとに、俺は幽霊みたいに未練がましくここにいる残りカスだ。
そんな残りカスがノートを見つけられるのか。
これがびっくり、見つけられたんだぜ?残りカスも捨てたもんじゃねぇなぁ!ざまぁみろ!!ははは!!!
窓辺にいた土鳩(マジで土鳩だ。なんで土鳩なんだ?)にノートを渡したら、重そうに嘴で挟んで飛んで行った。落とすなよ?
そして俺は後から土鳩を追いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!