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状況は一気に好転した。
どうやら惰眠を貪ってた祐介が目を覚ましたらしい。元に戻って何よりだ。
あいつが燃やしたのか、世界は火に包まれていた。俺も初めて見る光景で、暫しの間立ち止まってぼんやりと眺めちまった。
やれば出来るじゃねぇか。俺は自分の息子が少し誇らしくなった。そうして満たされた気持ちであいつの元に向かっていると、遠目に男爵がいるのが見えた。俺は一気に肝が冷えた。急いで向かうと男爵はご自慢のステッキであいつを攻撃する所だった。
俺はあいつを辛うじて突き飛ばした。男爵はイラついたようにステッキで地面を打った。
驚いた顔をするあいつに向かって俺は叫んだ。
「祐介!!こいつは俺が相手する!!
お前はそのノートを持って逃げろっ!!塵になって消えるまで見届けるんだっ!!」
俺はこの世界から出られねぇし、燃やしたんなら責任もって見届けろ我が息子よ。
「あいつをやるなら俺を倒してからにしやがれ、使い魔野郎」
こんなバカな父親だが、最後くらいカッコつけさせて貰うぜ。ついでに言うと悪あがきしてらって笑い飛ばしてくれれば最高だぜ。
「この残りカスが。残りカスは大人しく捨てられたまえ」
そう言うなりステッキが飛んで来た。うわっ怖ぇ!!
あいつがなんか叫んでるがとっとと行きやがれあんぽんたん。
燃えてるだぁ??お前ここ何処だと思ってんだよ、現実で熱いもんがここでも熱いとは限らねぇだろ、目の前見てみろよ、男爵だって燃えてんのに涼しい顔でステッキ振り回してやがるからなっ?!!火種を手で払いながらやってんだぞ見えてねぇのかよっ!!!
「つべこべ言わずに掴みやがれ!!タマ付いてねぇのかお前はよぉ!!!」
またステッキが飛んで来る。いや、飛んでねぇし振り回してるんだが早すぎて飛んでるようにしか見えねぇ、なんだよこれ。
あいつは何とか走って行ったようだ。良かった。それで少し気が抜けたのかステッキが横腹に当たって俺は吹き飛ばされた。
普通に痛え……俺もう死んでんのに……
「貴様のせいで気分は最悪。貴様には完全に塵芥となってもらわんとこちらの腹の虫が治まらん」
「はは…こんな残りカスを気にかけて頂いて光栄、って言うべきか?」
今度は蹴られた。ああもうなんで痛覚はあるんだよ…
男爵はまるで飽きたように上を見上げ、その後手で弄んでいたステッキを思い切り俺の上に突き立てた。
「ぐはっ」
これはなかなかに強烈だった。
「あースッキリ!ストレス発散は良いですね!!
さて、火を払うのも面倒になってきましたし、もう良いですかね。ここで遊んでいる時間はあまりなかったのでした。
早く我が主の元に向かって機嫌を取らなければ。あーやだやだ」
男爵の演技をするのに飽きたらしい。上から目線な使い魔野郎が本性を現しやがった。
「あれ、まだ生きてるんですかー?すごい、やっぱり残りカスは生命力があるんですね、勉強になります」
ですが生きてチョロチョロされると我が主の目に障りかねないのでしっかりと処分しますかー。
軽く言われたあと、胸に何か突き立てられた。
急速に意識が落ちていく。
あーくそ、もう持ちそうにねぇな。
あいつはちゃんと元の世界に帰れただろうか。
こんな情けねぇ父親ですまんかったな。
帰ったらしっかり母ちゃんを守ってやってくれ。俺の分まで。俺はもう支えてやれねぇからさ…
あー、死にたくねぇなぁ、消えたくねぇなぁ、会いてぇなぁ。
もう何も、してあげらんねぇ。
愛してる、心の底から愛してる、すまなかった、許してくれとは言わねぇ、俺が居なくても、幸せに生きてほしい。
もしもう一回、やり直せるなら今度こそ俺は………
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