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楓《カエデ》
貴方はもう私の元へは戻ってこない。それは私自身が一番良く知っている。
だって、私は貴方の死に立ち合ったんだから。
紅色の花が舞っていた。それが幽幻の夢のようで、何だか切なくなった。
この花と一緒に、貴方の命も散り逝くのだと……嫌でも感じてしまうから。
紅い花弁が還る蒼い空が憎らしいと思った。
「……カエデ」
自然と溢れた名前と涙。花弁と共に消えていくのが悲しくて、切ない。
貴方の瞳と同じ紅色が消えて逝くのは耐えられなくて、涙を流した。
「お前は生きろ」
残された言葉が胸に残る。『生きろ』なんて言われたら、死ねない。
後を追いたいと思っても許されない。許してくれない。
もし、カミサマが許されると言うのなら、私を彼の傍に……。
この閉ざされた時の中でいい、もう一度、カエデと一緒に……。
だから、貴方に許されなくてもこの命に蓋をしてしまおう。
この幽幻な夢が終わらないように。貴方の姿が見えなくならないように……。
だから、カミサマ。許してください。この終わらない夢を見ることを。
楓ーカエデー
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