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うろんな男は毎年元旦に暖炉に現れる。
いつもボロ切れを着て、白い肌が黒く霞ませて。
「去年よりも大きくなったね」
毎年毎年そう言ってはわたしに微笑んでくれる。あの人たちと違って。
するとうろんな男はタンスの上に立つ写真立てを持ち上げてその写真をまじまじと見る。
「大丈夫、あと一つだから」
そういうと、うろんな男は服から箱を取り出した。
「これ、今年のプレゼント。壊れないし、狂わない腕時計だよ」
優しく手渡された箱には確かに美しく、だが清楚な装飾がなされた。綺麗な腕時計があった。
ぺこり、とおじぎして小さく「ありがとうございます」と言ってみた。
うろんな男は優しい声で「どういたしまして」と返してきた。
うろんな男は毎年この一連の動きを繰り返す。毎回違うのは、まず写真立てを見てから話すセリフ。
初めて会った時に言っていた言葉は『10』で、そこから毎年一つずつ数字が減っていくこと。
次に違うのは毎年くれるプレゼント。
最初から言うと、くすりばこ、ルービックキューブ、霜焼けに必ず効く薬、三日月模様のネックレス、お姫様の冠、絶対に消えないライト、サイズが変わるスニーカー、兵隊さんのくるみ割り人形……今年は腕時計。
なぜだろう……?
そう考えて唸っていると、いつの間にかうろんな男はふっと姿を消していた。
やっぱり今年もそう。
ふと、きっちり閉められた窓の奥に吹雪で荒れる暗闇を見た。
「……もう寝よう」
屋根裏まで行き、薄めのブランケットを一枚自身の身体にくるんで、くすんだ瞳をゆっくり閉じた。
そして、今年の元旦。
いつもつけられる小さくてたくさんの傷の手当てを終えて、私は毎年の
うろんな男は暖炉に現れなかった。
代わりに、あの人たちの寝室に現れた。
大柄な体のその大きな手には、少し長めの鉈。
私がうろんな男の登場に気づいたのは、2人の悲鳴が聞こえてからだった。
大急ぎで私は2人のところへ行った。
そして、勢いよく扉を開けた時、
「おい、まて!お前は……!」
「キャーッ!だれかぁ!」
すると左眼にピッと何かの飛沫が飛び散り、視界はほんの少し赤暗くなってしまう。
ぼんやりとしか見えない。
それでも今この場で何が行われているのかはなんとなくわかっていた。
でも。
でも、それでも。
やがてゆっくりと浅ましい蝋燭の火が二つ消えた。
……そしてごろっと肉塊となった"それ"が足元に転がる。
こうなるんだろうとわかっていても、唇に飛び血を滲ませた私は呆気に取られていた。
そしてうろんな男は転がる二つの肉塊を睨み付ける。
「大丈夫、今日でゼロだから」
そうして私はうろんな男に手をひかれ、雪が降りしきる暗闇へと靴下で飛び出していったのだった。
馬に乗って吹雪の中を駆け抜ける。
風で、うろんな男のフードがするっと投げた。
私は驚く。
うろんな男は……自分によく似た若い女性だったのだ。
その時、プレゼントの意味が私にはわかって、心の底から
「ありがとう」
と、彼女に言う。
うろんな彼女はその言葉にこう返した。
「どういたしまして」
と。
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