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7月の中体連市内大会は準決勝で負けた。
第3ピリオド終盤、相手のラフプレーから顔面に肘を食らった真惟は派手に鼻血塗れで、司令塔兼外からのポイントゲッターを欠いたチームは崩れに崩れた。
4ピリで、ハロウィンの仮装みたいに鼻からぐるっと顔面にテーピングした真惟がコートに戻っても追いつけないまま、俺らの中学バスケ生活は終わった。
「俺がチビだからまともに食らった……ごめんなあ」
心底情けなさそうに言って泣いた真惟を、みんなでおしくらまんじゅうみたいにぎゅーして泣いた。
ただ俺の場合は、試合に負けた悔しさと、もうこれからは真惟と居る時間が激減してしまうんだって喪失感で泣いていた。真惟と一緒に過ごす理由を失う事が悲しくて仕方なかった。みんな青春している中で、俺のはかなり邪な感情ダダ漏れの涙だったと思う。
部活を引退すれば受験一色。俺は塾の夏期集中講座に放り込まれる事が決定事項で灰色の受験生まっしぐらだった。真惟は学校の課題を早々にやっつけ『遊びまくってやる』とかほざいていたが。
中1中2は夏休みの殆どを真惟と過ごしたのに、中3で経験した真惟の居ない夏はまさしく灰色だった。茹だるような暑さと湿気、蝉時雨。毎日が憂鬱な夏を経験したのは初めてだった。
そして二学期。久し振りに会った真惟はなんか大きくなっていた。身長が明らかに伸び、顔つきもなんか大人っぽくなって。
女子の言う『背が高かったら完璧』の『完璧な容姿』になりつつある気がした。
「今何センチ」
「160ちょい」
「まだ俺のが高いか……」
「うっちーは越せる気しねー。高校で170まで伸びたらいいかなってショーコも言ってるわー」
“ショーコ” ちゃんは真惟のお母さんである。母ひとり子ひとりゆえかえらく仲が良く、ゆえに俺ら息子の同級生とも仲がいい。かつて敵方だったミニバス時代も美人と評判の保護者さんだった。真惟はショーコちゃん似なのだ。
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