ランブル

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   自宅から徒歩圏内の(自由な校風と言えば聞こえのいい)公立高を志望するとか。  非課税でバイトするなら時給いくらのところで週何時間ペースで働くのがベストとか。  真惟はいつもショーコちゃんに負担を掛けない、ちょっとでも助けになれる方法を模索している中学生だったと思う。偉いなって純粋な感心と、住む世界が違うような一抹の寂しさが綯交ぜの複雑な感情で俺は真惟を見つめていた。  そして夏服から衣替えになった秋。  その日は雨で、いつも通り真惟と一緒に下校している時だった。通学路を平べったい亀が横断していた。20センチ以上はある大きな亀。下校中の生徒たちはワイワイしながらも避けて歩いていたけど、真惟はその泥だらけの亀を掬い上げ、脇の田圃に返してやった。 「うっちー、ポケットからハンカチ取ってー」 「ん……みんなほっといてんのに物好きだなー」 「だってあんなとこ歩いてたら車に轢かれる。好奇心は亀を殺すってゆーし」 「“猫を殺す” だわ」  ほんの数メートル、田圃から田圃への散歩も亀にとっては命懸けだ。亀に好奇心があるのかどうかは知らないけれど、真惟はきっと『いい事』をしたんだと思った。真惟は本当に優しいから。  だけど翌日、その亀だったのか別の亀だったのか……同じ通学路で亀が一匹ぺちゃんこになっていた。結構グロテスクな状態だったせいか、先生達が手袋とかビニールとかを持って来て片付けを始めた。  いくら通学路でも、先生ってこんな事までしなきゃいけないのか、大変だよなって思いつつ、隣の真惟を見ると無感情な目でじっと雨に滲んだ血を見ていた。そしてお腹の前で手を合わせると、俺を置いて走って帰ってしまった。  俺は、真惟のリトルグリーンメン柄の傘が色とりどりの傘の隙間を縫うように遠ざかって行くのをただぼーっと見つめていた。  
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