189人が本棚に入れています
本棚に追加
その日は塾でも本当に落ち着かなくて。集中出来なくて。帰り道は遠回りして真惟の家がある団地に向かった。
夜、自転車で風を切ると真冬みたいに寒い。でも、真惟がまた泣いてる気がして焦ってペダルを踏んだ。
優しい真惟の事を考えると胸が痛くて。ジクジクと痛くて。
15才の俺は、どうしたら真惟が泣いたり悲しんだりせずに済むんだろうって、そんな事を真面目に考えてしまう……後になって考えるとちょっと残念な子だったように思う。
でも、恋って多分そーゆー所があるんだ。
好きな人にはいつだって腹から笑っていて欲しいものなんだ。
「うっちー!どした!塾の帰りか!」
真惟は何事もなかったように家に招き入れ、ブレンディスティックのココアを入れてくれた。両手で右手をぎゅっと握られ「めっちゃ冷たい!」って笑う顔が切ないけど可愛かった。
「今日、置いて帰ってごめんなー」
「いや、それは別にいい……ショーコちゃんは?まだ仕事?」
「今日は遅くなるんだってさ」
この団地住まいの友達は何人か居てお邪魔した事だってあるけど、全室同じ作り、同じ間取りの筈なのにここはちょっと違う空気だった。物が少なくてすっきり片付いているせいかも知れない。
まだ小学生だった真惟が掃除を手伝うって言った時、ショーコちゃんは割れ物とかを片付け、無駄な雑貨類を断捨離し、とにかく掃除がしやすい家に模様替えしたんだと言っていた。
『思い遣り』が詰まった部屋だから違って見えるのか、単に真惟が居るからなんでも特別に見えてしまうのか─────解らないけれど。
「ちょうど良かった、うっちーに頼みがある」
「……なに」
「部屋来て」
急き立てるように部屋に連れて行かれると、ベッドをポンポンして座れって言われた。俺は内心ドキドキしていたけど、言われた通りにした。途端に真惟が俺の膝に滑り込んで来てマジで口から心臓が飛び出すかと思った。
最初のコメントを投稿しよう!