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第四話 再起に向かって
「ただいま~」
「トーシャじーさん、おかえり~」
帰宅したときには、久しぶりにクオーレの姿が見えた。
かなり眠っていたのか、すっかり元気になっていた。
「九頭龍大神の下まで行って寝るなら一言ちょうだい。どこ行ったのかわからなかったよ。じーさんは心配性だから、少しくらい気を使ってくれ」
「ごめんなさい」
「それにしても一瞬でいなくなるなってびっくりしたよ」
「龍は択捉島から石垣島までわずか数秒で飛べるからね。じーさんはどうして一瞬で移動できないのカッ?」
龍は瞬間移動ができるのか・・・それにしても、クオーレからの質問にはどう答えたらいいのかわからない。
「えっと・・・・・それは・・・・・物質を伴っているから非常に重いのかな・・・頻繁に眠るのも、重い体を纏っている影響で想像以上に疲れるからね」
「そうなんだー。面白いね。一度でもいいから人間になってみたいな」
正直、クオーレには人間になってほしくない。
申し訳ないが、これは相当しんどいことがあまりにも多すぎるため、龍から人になるのは危険すぎる。
「それ相応の覚悟がないと人にはなれないよ。ハッキリ言っておくけど、想像以上にしんどいことだらけだからな。むしろ鳳凰のほうがいいぞ」
「う~ん・・・トーシャじーさんってすごいんだね」
こうしてクオーレとの話は深夜に及んだ。
翌朝、九頭龍大神がやってきた。
「どうだったかね?少しは思い出したか?」
「はい、少し思い出しました。なんか、かなり楽になりました」
「いい感じだな。それでは次へ行こうか・・・」
「はい」
九頭龍大神の指導がまだ続く。
二ノ頭 素直に受け取れ
「どうだったかね?関東の神社巡りは?」
「すごかったです。神田明神に脱力方法を教えてくれたし、金吾龍神にかつての自分の姿を教えてくれたりなどでいろいろ楽しかったよ。もちろん全力でふざけた参拝をやってみたが、どの神様も大喜びだったよ。最後の三峰神社で門が閉まる直前に恩恵を受け取ってほしいとの声がしたけど、あれは何だったのかな?」
「ほう・・・そうか、汝はずっと神恩感謝をしておったからな。もしかしたら神様からの御厚意が準備されているかもしれん」
「なるほど・・・では、次の指導は何ですか?」
「そうじゃな、素直に受け取る訓練をしようではないか」
「素直に受け取る?」
「そうじゃ。汝よ、神社に感謝の思いを伝え続けてきたじゃろ?」
「そうです。もう数えきれないほど感謝を伝えてきました」
「感謝の思いが多くの神様に響いたのだろう。となれば、御厚意を受け取る器ができているはずじゃ」
「器ができている?」
「その器は御厚意を受け取るものだと思え。器が大きい人ほど物事の捉え方に寛容なのじゃよ」
「では、受け取るものはいいものだけを・・・」
「それは違うぞ!!」
「え?じゃあ悪いものも受け取れと・・・?」
「そうじゃ。いいことも悪いことも、素直に受け取れる器を持つことが大事なのじゃよ。汝は病気や障害を抱えておる。が、これと同時に神様と触れ合える機会が増えたり、なにかと特別者扱いされたりするだろ?要するに物事の視点を変えるのじゃ」
「なるほど、そういえば、うつ病になったけど、違う視点から見れば過労死を止めてくれたと捉えることができるね。あと、発達障害と診断をされてからずっと障害者手帳を持っているけど、このおかげで路線バスが半額になったり、動物園や水族館が無料になったりなどすごい特典がついてきたよ」
「いい例じゃ。この世に光と闇があるように、どんな物事でも良い面と悪い面を兼ね備えている。素直に自分はこういうものだと認め、事実を受け入れる。これができれば、神様はもちろん、どんな人にも好かれるのじゃ」
「それはいいですね。どんなことが起きても、素直に認めて受け取ることが大事なのですね」
「よくわかったな。では、早速だが素直に受け取る訓練でもしようか」
「もちろんやります!!」
「それじゃ、これを受け取りたまえ」
九頭龍大神の指導を終えて、早速受け取ったもの。それは・・・
「龍の手紙?何だろう?」
もちろんこれは自分の魂に送られてきたもので、実際には何も見えない。
その手紙の内容はというと・・・
「えっ・・・なんて読むの?これ?」
なんとも不思議な文字で書かれていた。
「九頭龍様・・・ってもう行っちゃったのか・・・」
封を開けたときには九頭龍大神の姿はなかった。
ということで、クオーレに読めるか聞いてみた。
「クオーレ。さっき九頭龍様からこれを受け取ったよ。手紙の文字なんだけど、これ読める?」
手紙に書かれていた文字を見たクオーレはこう言った。
「あっ、これは龍体文字だゾ。これは龍神の世界では普通に使われている文字なんだゾ。えーっと、どれどれ?」
よかった・・・クオーレに助けられた。
クオーレのおかげで龍体文字の解読が進む。
「『やよいつきのくずりゅうじんじゃへこい』って書かれているゾ」
「弥生月の九頭龍神社へ来い?どうしてこのタイミングで?」
このときはよくわからなかった。この手紙は一体何を指しているのだろうか?
あれから1週間が経過したときだった。
「箱根の九頭龍神社月次祭のことかな?今月行けと言われても、もう生活費で手一杯だし、今月は行けないなぁ~。そもそも当初の予定としては4月に行くはずだったのに・・・」
ため息が漏れたとき、クオーレは・・・
「月次祭へ行くお金がないの?それじゃ、ちょっと用意してくる」
そういってまたどこかへ行った。
数日後、電話が鳴り響いた。
「0120・・・・どこからだろう?」
とりあえず出てみる。すると・・・
「こちらはAダイレクト保険事故処理担当の川上です。この前のバイク事故における保険金についてお話がありますが、お時間はよろしいでしょうか?」
え?保険金?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!
2017年12月の出来事を思い出した。
当時はまだ会社に入ってまだ数ヶ月だったため、移動手段の確保をするために原付を1台買っていた。
山間部にお出かけをしていた時だった。
帰り道、夜中をバイクで走っていたらいきなり動物と接触し、そのまま転倒した。この時に左肩を骨折し、救急車で運ばれた。
これにより、1ヶ月入院と療養生活を送る羽目になった。しかし、この事故がきっかけで、中古の自動車を買うことができた。
このことを産土神に伝えたとき、こんなことを言われた。
「どうだい?お主の願っていたことはすべて年内に叶えさせてもらったぞ」
「痛かったけど、叶ってよかったです!」
そう答えた記憶があった。
保険については、年明けに見舞金30万円が贈られてきたことで、なんとか生活ができた。が、何か別のもの受け取れることを忘れていた。
オペレーターから説明を受ける。
「保険金の受け取りがまだ済んでいないようで、金額で言うと7万円です。これを使うと等級が下がりますが、使いますか?」
なんと!7万円は嬉しいではないか!
もちろん、ここで九頭龍大神の指導のひとつ「素直に受け取る」をやってみる。
「はい!使います!!」
「ありがとうございます。ではご不明な点等ございますか?」
この質問に対してこう答えた。
「最短で手続きしてもらえますか?」
「かしこまりました。では本日中に手続きを進めさせていただきます。最短で12日の夕方6時に先程お伝えされました銀行口座に振り込まれますので、よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
すごい!これならギリギリ間に合う!!
これはなんという奇跡でしょう。
素直に受け取ることは、感謝につながる。
そう感じたときだった。
一方で、クオーレは・・・
「じーさんが九頭龍神社の月次祭に行くお金がないって言っていたゾ。九頭龍様、これはどうしましょうカッ?」
クオーレが向かった場所は戸隠神社の九頭龍社だった。この時に九頭龍大神と相談をしていた。
「クオーレ、トーシャの行動記録簿を見たらどうじゃ?」
「了解しました!」
必死になって行動記録簿を見つめるクオーレ。この時、何かを見つけた。
「交通事故があったゾ。あの時左肩を痛めていたな。もしかして・・・これならお金になるかも!」
思い立ったらすぐ行動に移す。
そして、複数ある保険会社に念を送り続けた。そして、ある保険会社に目を付けた。
「ここの保険会社、トーシャの名簿がある!しかもまだ受け取っていないお金が見つかった!よし、念(テレパシー)を送りつづけるゾォ!!」
そして念を送り続ける。すると、送り続けた念が事故処理担当の人にぶつかった。
「よし、この人を操って、トーシャを喜ばせよう!」
こうして、担当者に取りつき、自分に向けて電話をかけさせた。
「いいゾォ~その調子だ」
順調に話を進めていくが・・・
「最短で手続きをしてもらえますか?」
と言った瞬間だった。
「トーシャじーさん!!最短っていつだよ!」
クオーレが混乱してしまった。このままでは、振り込みが間に合わない可能性が出てきた。
「このままでは・・・」
すると、この場でクオーレのもとに何かがきた。
その正体は・・・三峰神社の御祭神だった。
「あなたは誰?」
「三峰大神です」
「ちょっと手伝ってもらっていいですカッ?」
「はい、どうしましたか?」
「オイラはトーシャを守る金龍クオーレだゾ。今、トーシャが箱根九頭龍神社月次祭に行けないと困っているから必死でこの人を操っているのだが、トーシャが『最短で手続きをしてもらえますか?』って言ったからいつまでに振り込ませるかわからなくなったゾ!三峰様、どうしたらいいですカッ?」
「トーシャって誰のこと?」
「あ・・・トシユキのことだゾ!愛知県豊田市にいるトシユキ。わかるかな?」
「あの人、この前来ていたね。恩恵を受け取ってもらいたいからこっちに寄っていただけだが、まさかあの人を守る龍神が来ていたなんて偶然ね。で、九頭龍神社の月次祭は確か・・・13日だったね。それまでに間に合うように調整してもらいましょう」
「ありがとう!!」
三峰大神の後押しをもらい、12日に振り込みさせる念を送り続けた。
「最短で12日の夕方6時に先程お伝えされました銀行口座に振り込まれますので、よろしくお願いします」
「すごい圧力だ・・・三峰様、ありがとうございました!」
「よかったわ~、ひとまず安心ね。それじゃ、トシユキさんのもとに帰って、引き続き頑張ってね」
「アイアイサー!!」
12日の夕方に銀行へ向かうと、約束通り7万円分が振り込まれていた。
「よかった・・・これで明日は行けるぞー!」
「やれやれ・・・間に合ってよかったゾ。一時的にどうなるのかと思ったゾ・・・」
「これって、クオーレがやってくれたのか?」
「もちろんだゾ」
「ありがとう。助かった・・・」
こうして翌日の九頭龍神社月次祭へ行く準備を進めていった。
深夜2時、仮眠をとって準備をする。
平日だったため、高速道路の深夜割引を適用させたかった。そのため、この時間帯に出発するのが一番だった。
到着は朝6時と表示される。
「よし、行こう」
準備を済ませ、自動車を走らせる。
・・・のだが、ある問題が発生した。
「これ、深夜割引に間に合うか?」
時計を見たときにはもう3時45分を示していた。しかし、最寄りのインターまであと10キロ走らないといけない。もちろん違反は厳禁である。
「頼む!間に合ってくれ!!」
ここまで来たら神頼みしかなかった。
インターに入り、ゲートをくぐる。
時計は・・・・3時59分を示していた。
あと5秒遅かったら割引が適用されなかったところだった。
「ふぅ・・・危なかった~」
ギリギリ間に合ったところで、箱根に向かって自動車を走らせる。
「この奇跡も、素直に受け取ろう。あと、サービスエリアで休憩するときに反省でもするか・・・」
朝5時になり、駿河湾沼津サービスエリアで一度休憩をとる。
そこで、クオーレが話をかけてくる。
「トーシャじーさんが龍だった時って、オイラみたいに時間を操ることをしていたの?」
「う~ん・・・どうだったかなぁ・・・。そもそも龍神って時間まで操れるものなの?」
「忘れちゃったのか~」
「しょうがないよ。今ではこの重い体を纏っているし、龍だった頃なんか生まれたときにすっかり忘れるものだから」
「ふ~ん、時間は操り放題だけど、これはあくまでも良い方向にもっていくためだけに使っているだけだゾ」
「じゃあナイスタイミングっていうときがあるけど、これはもしかして?」
「そうだね。トーシャじーさんみたいにその人に龍神様がついているかもね。もしいいタイミングで物事が進んできたら、きっと龍神様や天狗様のお計らいが入っていると思ったほうがいいゾ」
「そうなんだ!面白いね。いい知識を与えてくれてありがとう」
少し反省を踏まえたうえで休憩を取り、再度箱根へ向かった。
朝6時。箱根神社へ到着。
かなり明るくなってきたが、日の出はまだ先だった。
月次祭参列は初めてだった。しかも一番乗り確定だったので、最も強く呼ばれたのでしょう。
箱根大神に挨拶をする。
「今日は九頭龍神社本宮月次祭に参列します。ありがとうございました」
箱根大神はというと・・・
「平日なのによく来たね。どうしてなの?」
「実はうつ病の長期療養をしていて、復職までかなり時間がかかるからというのを利用して思いっきり来ました」
「なるほど、あれからどうなった?」
「それが、九頭龍様が直接来るようになったのです。俺が龍だった頃を思い出せと言わんばかりに指導をしてきます」
「ほぉ、龍を守る九頭龍大神をよく味方につけたね。指導の効果はどうだった?」
「こうやって九頭龍神社本宮月次祭に来られたのも、九頭龍様の指導のおかげです。あれから奇跡が連続して発生しましたよ」
「おぉ~これはよかった。神様の計らいを受け取れたようだね。よし、船場に向かっていきなさい」
「ありがとうございます」
そして、船場に向かう。
催行開始時間は10時、一方、受付は8時から始まる。乗船時間は9時で、およそ40分間遊覧船に乗って九頭龍神社本宮に向かう。
あの時、クオーレが働いていなかったら、今更ここに辿り着いていないだろう。
一番乗りで来たので、先頭は自分だった。
「なんか、俺が一番呼ばれているかもしれない」
そう思っていたその時だった。
「すみません。取材に協力していただいてよろしいですか?」
なんと、テレビ局から声をかけられた。
なんだ!?乗船直前に取材も受けるとか、これもお計らいなのか!?
よし、こうなったら素直に受け入れようではないか。
「いいですよ~♪」
こうして取材に応じて、気分が高揚していった。
まさかテレビに出演してしまうとは、これも奇跡である。
「なにかのきっかけでここに来られたのですか?」
「そうですね。九頭龍大神に一番呼ばれているのは俺だからでしょう。真っ先に呼ばれたからこそ、先頭に立っているのです」
取材は順調に進んでいき、番組に取材内容を使わせてもらうことに同意を得る。
「4月22日、帰れマンデーにてオンエアーされます」
自宅にはテレビはないけど・・・いいか。
遊覧船に乗り、箱根九頭龍神社本宮へ。
もちろん拝殿には一番乗りで参拝。
「九頭龍様、ありがとうございます。素直に受け取り続けた結果、ここまで来ました」
「よく来たな。あの手紙の意味を理解できた汝は素晴らしい」
「あれはクオーレがいたからですよ。あの文字、一体何ですか?」
「まだ思い出せないのか・・・あれは龍体文字といって、神代文字の中でも最も古い時期に使われていたものじゃ。今では龍神界の標準文字とはなっているが、30年前の龍の背に乗る民は普通に使っていたのじゃよ」
「30年前って、龍神時計から換算すると・・・7200年前!?」
「そうじゃ。汝も普通に使っておっただろ?」
「・・・」
とりあえず今まで使っていたことにしておこう。
それよりも、かなり人が集まってきた。もうすぐ月次祭が始まる。
「まぁ現時点では思い出せんでもいい。もうすぐ我のお祭りが始まるから、並びたまえ」
「はい」
「それじゃ、次の指導を始めるぞ。いいか?」
「え?祭りが始まっちゃうよ!放置して大丈夫なの?」
「問題ない。汝を真っ先に呼んだのは祭り参列ついでに指導もするからな。なんにせよ我の頭の数は9つあるからな。1つくらい汝に指導を入れても他人の願い事は残りの8つの頭でしっかり聞いておる。これくらいならたいしたことないぞ」
まさかの祭典中に指導をするなんて、今日の月次祭はこのためだけに呼ばれたっていうことなの?
いや、これは龍の記憶を取り戻すためにやっているだけだ。これくらいなら受け入れてもいい。
ということで、祭典が始まると同時に指導が始まった。
三ノ頭 怖いもの知らずになれ
「まずは修祓、次に祝詞奏上・・・」
「さて、祝詞奏上に入ったところで、指導をはじめるぞ」
「はい。それにしても、すごく気持ちいな。何だろう?この不思議な感覚は初めてだよ」
「滅多に体験できないことだからな。豪華な祝詞奏上も合わさって最高だろ?」
「こんな特別な祭典を、一番乗りで招待してくれたのはとてもありがたいことです」
「ま、礼を言うのは祭典が終わってからでいいぞ。勇気をもって飛び込むことも大事じゃからな」
「では、今回の指導は?」
「これからの指導は、クオーレの背中に乗ってもらう必要がある」
「このおチビちゃんの背中に乗る?」
「お、おチビちゃんって言われるのはイテテテテテテ!!」
「今は九頭龍様の指導中だ、黙っていろ」
「そうじゃ。まだ幼いが、それでもほかの龍神様と引けを取らないほどの実力を持っておる。クオーレの背に乗るためには、何が必要かね?」
「さっき、勇気って言いましたよね?」
「それもそうじゃが、これではまだ足りないぞ」
「力も必要ですか?」
「それも大事じゃ。あともうひとつ足りん」
「知恵・・・でいいのかな?」
「そうじゃ。龍の背に乗るために必要な要素は『力・知恵・勇気』の3つじゃ」
「そうなんだー。これは確かミツウロコのゲームで覚えたよ」
「面白いな~ミツウロコのゲームで例えるとは・・・では、最初のひとつ、勇気を出してもらおうか」
「勇気・・・ですか?」
「そうじゃ。汝はこれから多くの龍と関わる機会が増えるじゃろう。それで、数多くいる龍の背中に躊躇せず乗る勇気を持ってもらう」
「えっと、勇気の持ち方については具体的にどんな方法が挙げられますか?」
「簡単じゃ。どんな物事に対しても思い切って飛び込むだけで十分じゃ。特にやったことがないこと、行ったことがない場所に行くことは、大きく飛躍できるぞ」
「つまり・・・勇気を出すというのは、未踏の地に行けということ?」
「そうじゃ。汝は消化が早いのぉ」
「なるほどね。ただ、やろうと思っても、不安とか恐怖とか襲ってきてしまうのですが・・・」
「どこに不安要素があるのかね?」
「えっと・・・例えばだけど、やったことない仕事に就いたときとかで失敗したらどうしようとか、知らない場所にいって迷子になったらどうしようとかそういうものなのですが・・・」
「ほう、そんなどうでもいいことに怯えて行動しなかったら、何も得られん。それどころか、自然淘汰されていくぞ!」
「そんな怖いことを言うなんて・・・では、どうすればいいでしょうか?」
「そうじゃな・・・汝よ、これから怖いもの知らずになってもらおうか」
「怖いもの知らず?」
「不安や恐怖というものは、この世に存在しないものじゃ。こんなもの、人間が勝手に作り上げた想像にすぎん」
「えっ?そうなの!?」
「そりゃそうじゃよ。恐怖や不安、悩みだなんて、神様や龍神の世界では存在せん。汝よ、恐怖はどこから来るとおもうかね?」
「えっと・・・ちょっと考えます」
「そこじゃ」
「はい?」
「今、なんと言ったかね?」
「考えますと言いましたが?」
「それなのじゃよ。恐怖、不安、悩みというものは、必ず先に思考から入っていくのじゃ。ああなったらどうしようとか、どうせこうなるからとか、先に思考が入らないかね?」
「そういえば、やり始める前に頭で考えてしまうことがよくありました。もしかしたら、これが原因で成長を妨げていたのかもしれないですね」
「ほほう、汝も少しは成長したようじゃな。では、怖いもの知らずになる方法を教えてやろう」
「はい、お願いします」
「汝は燃えよドラゴンという映画は知っているかね?」
「燃えよドラゴンズ・・・違う。こっちは中日ドラゴンズの応援歌だ。えっと、見たことはないですけど、聞いたことはあります」
「その主人公が放った有名な言葉があるのは知っておるか?」
「確か『考えるな、感じろ』という名言がありました」
「その通りじゃ。怖いもの知らずになる方法、それは、考えるのをやめ、味覚、触覚、視覚、嗅覚、聴覚といったものを徹底的に使いこなすだけじゃ。簡単に言うととにかく動けということじゃ」
「考えずにとにかく動き続けることね」
「よろしい。これが龍の背に乗るための必須条件である勇気の出し方じゃ。よいか?これから恐れず、考えず、疑わずにすぐ行動するのじゃ」
「ありがとうございます。早速やりましょう」
「いい子じゃ。さて、もうすぐ祭典が終わるぞ。汝の願い事はしっかりと受け取った。すぐに印を出しておくから、素直に受け取るのじゃよ」
「はい!」
九頭龍神社本宮月次祭が終わり、弁天社の月次祭が始まった。
九頭龍大神の指導中に少し感じたことがあった。
それは「一体感」だった。
ほかの参列者と一体になって、九頭龍大神に祈りを捧げる。
一瞬の出来事ではあったが、ものすごい力のある波動を感じた。
こんな言葉を聞いたことがある。
「日本人は、ひとりだけでは蟻のような存在だが、みんなが動けば龍になる」
これは確かに的を射抜いている。
日本は、とにかく災害が多い。
地震、津波、台風、噴火・・・挙げたらキリがない。
にもかかわらず、自然と向き合い、順応し、それぞれの災害に適応してきた。
東日本大震災や西日本豪雨が起きたとき、日本人らしい気質が顕著に表れたのを覚えている。
みんなで支えあい、協力し、発展につなげる。こうした波動が、九頭龍神社本宮月次祭の参列ですごく感じたのだった。
弁天社の月次祭が終わり、遊覧船に乗って戻る。
近くのレストランで食事をし、箱根神社に行ってお下がりをいただき、帰宅する。
帰宅中、クオーレの背中に乗る必要があると言われたことに、頭を悩ませていた。
「どうやって乗るんだ・・・」
「どうしたの?トーシャじーさん」
「アンタの背中に乗ることだよ。しかし、そもそも次元が異なる関係上、アンタの存在は見えないし触れないからどうするっていうことだよ」
「あははははwww仕方ないね♪でも耳だけは優れているんでしょ?」
「耳だけはね。こう見えても絶対音感を持っているからな。ピアノを弾いていたからこれくらいなら余裕だよ。あと、よーく神様の声が聞こえるからな。で、どう乗ればいいの?」
「そ、そんなのおチビちゃんって言ったやつには教えてあーげないっ!」
「ちょ・・・さ、さっきのは冗談だって!!」
おチビちゃんって言われたことをまだ根に持っている。なんとか説得してやらないと・・・
そうしていくうちに自宅に着いた。
ある日、発売を待っていた本があった。
その本は、小野寺S一貴さんの「龍神ガガの人生相談」という本だった。
アマゾンで予約を取り、発売を待つ。
実は、小野寺S一貴さんの本を何冊か買っては読んだのだが、不思議なことに、自分との共通点が多く見つかり、これがなかなか面白かった。
そして、この本を通して何度も救われたこともあり、いつか必ず恩返しをしたいと思っていた。
「この人に、何度も救われた。だから、絶対に会って話をしたい!」
そんな中で、公式ブログとツイッターから、あるイベントの告知が行われていた。
“ガガ祭り、今年は200人分を予定しております。予定は秋にしています。チケットの予約は後日お伝えします。
「ガガ祭りか・・・仙台は5年前のボランティアを最後に行ってないなぁ。今の状態で行けるかしら?そもそも参加費用は大丈夫かな?」
まだ先だったので、クオーレに話を持ち掛けた。
「クオーレ、ガガ先生に会いたいか?」
クオーレの回答は・・・
「ガガ先生ってだぁれ?」
「仙台にいる白龍さんで、タカ先生の妻をずっと守っているよ。で、龍神を流行らせた第一人者で、今では超有名な龍神さんだよ」
「そんなに有名なの!?会ってみたい!!」
どうやら会ってみたいそうだ。ということで、今後の動向を観察しつつ、どのようにクオーレの背中に乗る方法を探ることにした。
4月に入っても療養生活は続いた。もうすぐ平成が終わる。
この間にも社会福祉協議会の職員と生活支援をもらいつつ、障害者就労支援センターの人と協力をしながら、回復に向けての準備をしていた。
回復まで、もう少し・・・
そこで、協議の合間を縫い、西三河の神社に目を付けて参拝を試みることにした。
目についたのは、西尾市の伊(い)文(ふみ)神社、岡崎市の龍城神社だ。
西尾市には、父親側の祖父と、母親側の祖母の兄弟がいる。
幼少期には、お盆休みや年末年始を中心に何度も祖父の実家に訪れているため、何かと縁がある場所だった。
しかし、高校生1年の時に両親は離婚。母親側についたのを機に、西尾へ行くことはなくなった。
「おじいちゃん、元気かな?今でも覚えてくれているだろうか?」
離婚して以来、ずっと会っていなかったこともあり、もうすっかりと忘れられてもおかしくない状態だった。
それに、もう10年以上会っていないので、この期間中に亡くなっている可能性も十分ある。
それでも、やはり縁がある場所だったので、これが最後になるかもしれないという思いを込めて、会ってみることにした。
しかし、問題は連絡先が分からないことだった。
連絡先がない状態でいきなり祖父の家に訪問するのは勇気が必要だ。
このタイミングで、九頭龍大神の指導が試される。
4月19日、決行!
まずは、伊文神社に向かうため、自動車を走らせる。
自宅からおよそ2時間かけて到着。
やっぱり豊田はデカい!
伊文神社は、御祭神が素戔嗚尊と大国主命、文徳天皇で、古くから西尾城下町の総鎮守として祀られている。
平日だったこともあり、かなり静かな雰囲気が漂っていた。
でも、なんか働いていないと罪悪に感じてしまう・・・
こうした静かな雰囲気の中で参拝するのはかなり好きだ。
「豊田市から来ました。林 俊幸です。スサノオ様、お会いできたことに、大変感謝しております。ここには俺の祖父がいます。どうか無事会えるか、お力を添えていただけますか?」
すると・・・
「いらっしゃーい♪トシユキさん、八坂以来じゃない?」
「えっと、2月の京都巡り以来だったか・・・」
「あれ?そういえば金ピカの小さいドラゴンはいないの?」
「あぁ、アイツなら『スサノオなんか会いたくないもん!オイラをドラゴンというからいーかないっ!!』ってボイコットしちゃったよ。ということで今回は一人です」
「ちっ、つまんないなー。で、どうしたの?」
「実は、もう10年以上祖父に会っていなくて、無事なのかを確認したいところで来たということです」
「そう・・・?ちなみに場所は覚えているの?」
うろ覚えだったが、それでも記憶を辿ってみる。
「えっと、確か近くに何かしらの神社はあったな。どこかの交差点が近くにあって、えっと・・・あっ!」
なんとなく思い出した。
「ここです!」
「そうか。じゃ、勇気を振り絞っていきなさい。グッドラック♫」
そう言って、そっとどこかへ行った。
過去の記憶を頼りに、祖父の家を探した。
「確か、ここだったかしら?」
懐かしい。小学校の夏休みに父親と何回も訪れた場所だ。
あれから何年経ったかしら?でも、面影ははっきりとしていた。
「あっ、これか。見つかったぞぉ!」
ついに見つけた。しかし、連絡先などもうないので、いきなりインターホンを押すのはかなり度胸が試される。
それでも会いたい・・・もし生きているなら、成長した姿を見せてあげたい!
ついでに父親と会いたい・・・
自動車を敷地内に止めて、玄関前のインターホンを押そうとしたときだった。
「だ、大丈夫かなぁ?誰って言われてしまうと、なんか不安だ・・・」
やはり恐怖が襲ってきた。
しかし、九頭龍大神が「恐怖、不安は存在しない」という言葉を思い出し、勇気を振り絞ってインターホンを押す。
「ピーンポーン」
「ど・・・どうだ?」
「・・・・・・・・」
「あれ?」
「ピーンポーン」
「・・・・・・・・」
反応がない。もう違う人が住んでいるのかな・・・?
でも、確かにこの家だ。
あきらめて帰ろうとしたときだった。
1台の自動車が敷地に入ってきた。
もしかして・・・?
自動車から降りてきたのは・・・祖父の姿だった。
「あなたは・・・?」
「お、おじいちゃんですか?タカヒコの長男の俊幸です。覚えていますか?」
「・・・・タカちゃんの子供?」
「そうです。長男ですよ」
「わざわざ会いに来てくれたのか・・・久しぶりだな~」
なんと、おじいちゃんは生きていた!しかも覚えてくれていた!!
「おじいちゃん・・・・会いたかったよぉ~うっ・・・ぐすん・・・」
あまりにも感動しすぎて、泣き出してしまった・・・
しかし、ここで感情を表すのは大事。
祖父にこれまでの思いをぶつけたことで、心の壁が壊れた。
これまで、ずっと母親に「絶対に会うな。あんな奴はお前らをダメにする」と言いがかりをつけて抑えられてしまったことにより、自分の親なのに会うことに抵抗を覚え、何度か接触を試みたがすべてできなかった。
しかし、それは単に自分で勝手に壁を作っていただけに過ぎなかった。
こうして再会したことにより、またひとつ、成長した。
「祖母はもう亡くなってしまったなぁ~、もっと早く来ていればよかったのに・・・」
祖父の言葉に、成長した自分の姿を祖母に見せられなかったことに、後悔してしまった。
「そうなんですか・・・顔を見せられなかったことに・・・後悔しているよ」
「きっと、会いたかっただろうね。もう仕方ないから、また連絡してくれ」
そう言って、連絡先をもらった。
この中には、離婚したきり全然会っていない父親の電話番号があった。
祖父の家を後にして、岡崎の龍城神社に向かう。
自動車を走らせて約30分で到着。
龍城神社の御祭神は徳川家康。岡崎城といえば徳川家康が幼少期に過ごした場所として有名である。
実は、岡崎城を守る龍神がいるのは地元民でも知っている人は少数派だったりする。
築城の際、どことなく天守に龍が現れ、「我はこれ歳久しく此の処に住む龍神なり、汝われを鎮守の神と拝め祀らば永く此の城を守護し繁栄不易たらしめん」と仰せられたことで、天守楼上に龍神を祀り城地鎮守として崇められたことが由来である。
岡崎城の別名が「龍ヶ城」となっているのは、城周辺にまつわる龍神伝説から来ている。
時刻は15時半を回っていた。が、その時、何かどこかで聞いたことがあるような声がした。
岡崎城の上空を見上げてみると・・・なんと、クオーレの姿が!!
「あ!トーシャじーさん!!」
「クオーレ、なんでこんなところにいるの!?」
どうしてこんなところに・・・というか、早く参拝したい!
「矢作川を下っていたんだ♪そしたら、大きな城のてっぺんにがおーって大きな咆哮を上げていた龍神がいたんだ。で、ちょっとあーそぼって言ったら『まぁかわいい子ね。迷子なの?亭主は誰かしら?』っと言ってくれたんだゾ。お菓子をたくさんいただいちゃった♪」
クオーレを保護していた龍神って・・・まさか?
「あら?この幼い金龍の亭主かしら?」
「そ、そうです!わざわざ保護をしてくださり、ありがとうございます!あ、あなたは?」
なんか、口調が女性みたいな龍神だ。もしかして珍しい龍女なのか?
「我は龍ヶ城を守る龍女よぉ~。汝はトーシャというのかしら?」
「あ・・・・そ、それは何かの間違いでは・・・」
「あ~らヤダァ、ウソつきは邪龍の始まりよ~ん。あらぁ?どっかで聞いたことある名前だわ~」
え?こんな色気丸出しの龍女が岡崎城を守っていたの!?こんなの絶対ウソだ!!
龍女とは付き合ったことがないため、あまりにも動揺している。
「え、えっと、九頭龍大神に直接指導を受けています。どういうわけだか、九頭龍大神は『汝を必ず龍の姿に戻す』と言っていましたが、なぜそこまでして元に戻したいと言っているのでしょうか?」
龍女はこう言った。
「あ~ら、トーシャは九頭龍大神のことをご存知なのね・・・あら?なんだか変ね。汝は人の姿をに見えないわ」
クオーレが会話に割り込む。
「実はね、トーシャじーさんは元々九頭龍様のそばで動いていた凄腕の老龍だったんだ。でも、寿命を迎えようとしていた時に、九頭龍様と最後の役目を果たしたいと願っていたんだ」
「え?どうしてそんなことが言えるの?俺はそんな約束をしたなんて知らないよ」
「人に生まれ変わる前にそう誓っていたのを見たゾ。オイラ、トーシャじーさんが『どうか、約束を果たして帰ってくる、九頭龍様、どうか見届けてくれ・・・』と言って息を引き取ったところを見ていたゾ。たまたま九頭龍様のそばにいたオイラが『汝よ、トーシャは人間に変わる。ずっと見守ってやれ』って言われて、今に至るんだ」
生まれる前からずっと見ていたため、もう反論できなかった。
これを聞いた龍女は驚いていた。
「あの凄腕の老龍の生まれ変わり!?」
「今は確信が持てないが、確かに生きづらいのは事実です。若干だが、記憶は取り戻しつつあります」
「すごいわ~。きっと何かの使命を受けて人に生まれ変わったのね。うふふ、応援してあ、げ、るっ♡」
「いやぁ照れるなぁ~」
「あっ、じーさんだけずるいゾォ~!」
生まれる前の自分の姿は、一体なんだったのか?
「そこの青年はいつになったら参拝してくれるかねぇ」
本殿から家康公が顔を覗かせていた・・・ような気がした。
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