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第一話 金龍との出会い
時は2019年元旦。すべてはここから始まった。
自分の名前は「林 俊幸」である。平成5年生まれ、愛知県豊田市出身。
場所は自分の産土神がいる「挙母神社」である。
ここでは造化三神の一柱である「高皇産霊神」が祀られており、地元民からは「お子守さん」という愛称で呼ばれており、子育て世帯からの参拝客がよく来る。
「あけましておめでとうございます。お子守様、昨年度は大変お世話になり、誠にありがとうございました。今年もよろしくお願いします」
この日はめでたい初詣。大勢の人が拝殿に押し寄せる中で参拝していた。
今年の目標は、一人でできる仕事がしたいということで、町工場の輸送の後継者を目指すことにした。
「そうだ、おみくじを引いて帰ろう」
初詣では、おみくじを引いて帰るのが自分の中では決まり事だった。これは今年の運勢を占うことに役に立てるためである。
結果は・・・
「中吉 思いもかけぬ煩い起こりて心痛するが、心正しく身を慎めば年永く音信のたえし縁者または他人の便りありで喜び事が来ます何事も運に任せ思い煩うな」
「おっ、今年は中吉かぁ、去年は大吉だったから、ちょっと注意しよう。それにしても、煩い起こりてというのはどういうことだろう・・・?」
初詣で産土神様への挨拶を終えて、車に向かう。すると・・・
「おっかえり~」
???
どこか声が聞こえる。いや、ただの気のせいか?
「どうしたの?オイラの存在に気づかないのかい?」
「ちょ・・・誰??俺に呼び掛けているのは!?」
「オイラはじーさんをずっと見守っている金龍だゾ。ようやく気が付いてくれたんだね。嬉しいな~♪」
「・・・」
「どうしたの?なにしらけちゃって、じーさんらしくないな~」
「じ、じいさんとはなんぞ!?俺はまだ25だし、全然若いぞ!!」
参拝客が溢れかえる中で、自分に声をかけてくる人はいない。どういう状況なのかさっぱり訳が分からなくなっていた。だが、確かに声が聞こえてくる・・・
「面白いね~じーさん、もう忘れちゃったの?あの時のお・も・い・で♪」
・・・ハッ!!
時を遡ること2ヶ月前、お礼を伝えるべくある神社で人生初の神恩感謝の御祈祷をしたときだった。
普通なら産土神であるお子守さんに神恩感謝をするはずだったのだが、この時はなぜかお子守さんから「我に神恩感謝だと?まぁしてもいいが、どうせするなら偉大なる9つの頭を持つ龍に神恩感謝をしたほうが我としてはいいだろう」という御神託を受け、9つの頭を持つ龍神様に御祈祷することとなった。
御祈祷後にお子守さんに報告をしたところ、お子守さんから「ほぉ~これはこれは立派な金ピカな龍神を連れてきたじゃないか、大事に育てるんだよ」と言われた。
お子守さんが指摘したあの金龍だったのか・・・
「えっと、金龍さんですか?なんで俺についてきたんですか?それに、一体何が起きているんでしょうか?教えてください!!」
「オイラは九頭龍大神からの使いで来たゾ。とはいえ、じーさんが生まれる時からずぅぅぅぅっと見守ってきたんだゾ。やっと意思疎通ができるようになったね。これからもヨ・ロ・シ・ク♪」
話が全然通じない・・・それに、生まれる前からずっと見守っていただなんて絶対ウソだと当時は思っていた。
「あぁっと、よろしくお願いします」
「何よ、カッチンコチンになっちゃって。寒すぎてフリーズするほど緊張してしまったのかい?もっと気楽に付き合おうゼ~」
こうして、金龍さんとお付き合いをはじめることとなった。
こうした正月を終えて、仕事始めへ。しかし、やはり集団での作業は苦手で嫌だった・・・
それでも全国の神社へと足を運ぶために、必死に働いて稼いでいた。もちろん生活も大事だが、それ以上に神様が好きで、いつもの週末の楽しみとしていた。
だが、仕事の状況はますます悪化するばかりで、残業は当たり前となり、疲労がだんだんと蓄積していった。これだったら、集団での作業より、一人でできる作業がいいと感じ、中型免許を取得してドライバーに転向することを決意した。
「じーさん、大丈夫か?なんか、疲れ果てているように見えるが・・・」
やはり金龍は心配している。しかし、一旦決めたことは最後までやり遂げる自分にとって、目標だけは達成したかった。
「これくらいなら、まだいけるさ。心配しないでくれ」
「うーん、休んだほうがいいよ、そんな重い体を纏っていると、じーさんしんどそうだゾ」
「大丈夫だ、問題ない。19日は岐阜まで行くよ。あの御朱印をもらいに」
「おっ、そんじゃ、無理しないでネ」
御朱印を集めるのも、参拝の一環としてやっていた。岐阜の伊奈波神社では、辛いときや疲れた時などに参拝すると心に癒しをもたらされるパワースポットとして有名な神社で、地元民に親しまれている。
この時も、残業がひどく疲れ果てていたためか、どうしても行きたいという衝動が強く働いていた。
19日、伊奈波神社へ訪問。到着前に金龍からこんなことを言われた。
「ここの神様って、どんな神様なの?」
「えっと、何だったっけ・・・?確か、えっと・・・」
「じーさん、どうしたの?どんな神様なのか知らないの?教えてよ」
「今は運転中だから着いたら調べる」
「もう・・・どんな神様なのか知らないまま参拝したって、オイラでも戸惑っちゃうゾ。とりあえず、着いたら由緒書きでも目を通しておいてネ」
金龍の神社参拝術
‣どんな神様が祀られているのかを事前に調べておく
到着後、スマートフォンを取り出し、伊奈波神社のホームページを開いて御祭神について調べてみた。すると・・・
「主祭神 五十瓊敷入彦命 垂仁天皇の第一皇子」
「ここは、垂仁天皇の長男が祀られているのか・・・」
どんな神様が祀られているのかがわかり、金龍の言う通り、由緒書きにも目を通してくと、この神社の成り立ちがわかってきた。
「こんなに奥が深い神社だったのか・・・まだ知らないことが多くてびっくり!!」
「オイラは字が読めんが、じーさんが人になったおかげで翻訳できるようになったゾ。よし、参拝に行こうゼ♪」
こうして駐車場を後にしていく。
そして、参道前の鳥居につくと、またしても金龍が何かを言ってくる。
「そうだじーさん、鳥居をくぐる前はどうしている?」
「まず一礼でしょ?これは神様に対して『お邪魔します』という敬意をもって入るんじゃないの?」
そう、鳥居の前では必ず一礼してから出入りするように心がけている。これはマナーとして基本中の基本だからだ。
しかし、金龍はこう言う。
「確かに、鳥居の前では必ず一礼をするのは基本だゾ。しかし、もっと大事なこと、忘れていないカッ?」
「大事なこと・・・?」
「じーさん、会社で面接に行くときはどんな格好で行く?」
「えっと、スーツを着ていくよ。あと、しっかりとした格好で挑むよ。って、ん???もしかして???」
「そう、次は『服装を整える』をやっておこう。だらしない格好は嫌でしょ?それは神様だって同じ。参拝前の服装をしっかりと確認しておこう。面接に挑むつもりで行こうゼ」
「よし、スーツじゃないけど、少しでも整えておこう」
金龍の神社参拝術
‣服装を整えておく
‣鳥居をくぐる前は必ず一礼する
服装を整え、鳥居の前で一礼し、参道に入る。
参道では、基本的に中央は神様が通る道とされているため、端を歩くこがマナーとされている。
ここの神社の参道は急坂となっていて、坂の頂上に拝殿が建っている。門の手前に、手水社があり、ここでお清めしてから挑むのだが、またしても金龍の一言が入る。
「ここのお水で手と口を洗う時はどうしている?」
「まずは・・・って、この神社は手水の作法の看板がないのかよ・・・えっと、柄杓に水を取って、左手を洗って、右手を洗って、左手で水を取り口を漱いで、再び左手を洗って、最後に柄杓を立てて柄の部分を洗って元に戻す。だよね。それも、お水を汲むのはたったの1回だけだよね」
「そうだよ。けれど、これができていない人がかなり多いんだゾ。中には手水をせずに拝殿に行ってしまう人もいて大変だゾ。特に最近の若い人よりも老人のほうができていない。オイラからみたら教育ができていない。それしか言えないんだゾ・・・」
確かに、手水社では龍の口から水が出ているところが多い。挙母神社の手水社でも龍の口から水が出ているので、龍神様からすれば手水の作法ができていない人を多く見てきたに違いない。そんな金龍の嘆きを聞いて、お清めにも気を付けることにした。
金龍の神社参拝術
‣正しい作法で清める
手水社でお清めを済ませ、階段を登っていざ参拝。
休日でもあって、かなり人集りがあったが、自分が拝殿に向かう時はたいてい空いている。
「ちょっと気になるけど質問していい?」
「ん?どうしたんだい?」
「有名な神社ほどよく混雑している光景を見るけど、自分が拝殿に立とうとすると前が空いている。これって何か意味があるの?」
素朴な疑問ではあったが、ほかにも手を合わせている最中に風が吹いたり、境内に入った瞬間ハトが飛んだり、参拝直前に突然雨が降ったりなど、何かしらの現象が起こるのを目撃していた。それに、自分が参拝を終え、振り返ると長蛇の列が出来上がっていることも多々ある。
「それはじーさんがかつて神様のお役を果たしていたからだよ。おそらくその名残りで、神様からすればじーさんを歓迎しているかもしれないゾ」
かつて神様のお役を果たしていた?一体どこで何をしていたのか、どこで活躍していたのか、さっぱりわからないが、とにかく歓迎されていると教えられた。
とはいえ、この金龍は生まれる前から現在に至るまでずっと見守っていたから、全部お見通しになっても仕方ないか・・・
金龍の神社参拝術
‣神様からの歓迎サインに気づく
・境内に入ると天候が変わる
・動物に遭遇する
・御祈祷が始まる
・祭りが行われている
・拝殿前の参拝客が突然いなくなる
・手を合わせていると風が吹く
「なるほど、歓迎されている可能性が高いのね。しかし、参拝客のほとんどはこうした現象に気づかないどころか、発生しないことが多いのではないでしょうか?」
金龍はさらに続ける。
「それは単にレベルが低いだけだゾ」
「レベルが低いという意味は?」
「うーん・・・確か、九頭龍様曰く、魂がどれだけ磨きあがっているかどうかなんとかとは言っていたな・・・レベルの違いは魂でわかると、多くの神様が言ってたゾ」
魂って、何だろう?
「えっと、俺は一体・・・」
「そうそう、じーさんの魂は・・・っと、これ以上言ってしまうと九頭龍様に怒られるからやめておこう。今は相当レベルが高いと思ってていいゾ」
「そんなに高いのか・・・ありがとう」
「それより、早く参拝しよー♪」
「おっと、そうだった」
そして拝殿に立つ。一礼して、お賽銭を・・・ん?
ここでも疑問が浮かぶ。
これって、金額はいくらがいいのかがよくわからなかった。
よく「ご縁があるから5円玉がいい」とか「一番大きい500円が最も願いが叶いやすくなる」という話を聞くのだが、果たしてどうだろうか?
「どうした?緊張しているの?」
「いや、お賽銭の額はどうしようかなと思っていたところだけど・・・」
「ほぉ~、それは手持ちのお金と相談かな?」
「どれくらいがいいでしょうか?」
「金額は、神様から見たら正直どうでもいいゾ。ただ、お賽銭に出すときの表情と気持ちが大事だゾ」
「なるほど、では・・・」
そっと10円玉を差し出そうとしたとき、金龍は止めに入ってきた!
「あっ!そんな出し方じゃダメ!!これでは負の連鎖になりかねない出し方だゾ!!」
「うわぁ!いきなりなにするんだよ!気持ちが大事って言ってたでしょ。なんで止めるのよ!!」
その時金龍はこう言った。
「明らかに出し惜しむような表情でお賽銭を入れようとしていたでしょ!!それでは神様にも『あぁ、この人は出したくないんだな、残念だ』っていう思いが一発で伝わってしまうゾ!」
「・・・」
この時、「もったいないからこれくらいで」という気持ちが働いていた。もしこのまま入れていたら・・・
「ご、ごめん・・・今月は厳しくてどうしようかと思っていたところで・・・これではちょっとダメかもしれん」
「ダメとは何ゾ?それだったら今から改善すればいいじゃないのカッ?」
「そ、そうだね。では、仕切り直して、えっと・・・」
もう一度お賽銭を出すときに、金龍がこう言った。
「出すときは、笑顔で気持ちよく喜んで出す。これがお賽銭の出し方における鉄則だゾ」
この一言をもとに、笑顔を作り、気持ちよく喜んで出してみた。
金龍の神社参拝術
‣お賽銭は金額よりも笑顔で気持ちよく喜んで出す
お賽銭を出して、二礼二拍一礼となるが、鈴がある場合、先に鈴を鳴らしておいてから二礼二拍一礼となる。
で、二拍と一礼の間に、お願い事を伝えることで、神様に願掛けができる。
「じーさんの拍手はいい音するね」
「そりゃあ元T教の信者だったからね。修養科時代で悪く鍛えらたときの名残さ。この拍手の音がしっかりと神様に聞こえるようにいつも心掛けているよ」
「いいね。最近では拍手の音が聞こえないという事案が多数来ていて、神様は『やる気がなさそう』と言って、願い事自体を断っている神社もあるんだ。だからしっかりと神様に聞こえるような拍手を届けることが大事だゾ」
これは大きな発見である。
二礼二拍一礼の作法も、一歩間違えれば神様に願い事どころか参拝自体を拒否されてしまうことがある。
これもしっかりと礼儀をもって参拝をすることが大切であることを教えられた。
お辞儀は最敬礼である45度を心掛け、拍手はしっかりと神様に聞こえるような音を出す。音の出し方は、手を合わせたとき、右手を左手の第一関節くらいの位置までずらし、左手の平に空気を入れる感じで叩くと、きれいな音が出る。これを心掛けて参拝すると、神様に思いが伝わりやすくなるということだ。
金龍の神社参拝術
‣礼は深く拍手の音はハッキリと鳴らす
こうして金龍から参拝方法を学んでいきながら、いよいよお願い事を伝えるところまできた。
「パン!パン!」
心の中で、こう唱える。
「愛知県豊田市から来ました。林 俊幸です。この度は、伊奈波神社へ参拝できたことにお礼を申し上げます」
「・・・・・」
「えっと、なんだっけ・・・?」
「じーさん、なに考えているのかわかんないよ~。無言厨なの?」
「あぁっと、確か声に出していいんだっけ?」
「出さなきゃわかんないゾ。それは人に思いを伝えるのと一緒で、神様もじーさんがどんなふうに思っているのかを、声に出して伝えてやらないとわかんないゾ」
「しかし、こんな大勢の参拝客がいる中で声出しだなんて・・・」
「気にするな!!どうせじーさんの声なんか神様以外は誰も聞きやしないゾ。さ、大きな声で、思いっきり伝えるんだゾ!」
しかし、大勢いる参拝客の中で声に出して願い事を伝えるのは正直恥ずかしい。それでも、とにかく伝えるには言葉にしたほうが断然有利なので、勇気を出して思いっきり腹から声を出して願い事を伝えた。
「あ、そうそう、自分の名前、住所、年齢も伝えておかないと、神様はアンタのことがわからないままになってしまうからしっかり伝えるんだゾ」
「それ先に言ってよぉ~」
金龍の神社参拝術
‣神社での願い事は声に出して伝える
‣ついでに住所氏名年齢(数え年)を忘れずに伝える
「ようこそ。トシユキさん。遠路はるばるから参拝に来られるのは何かあったのでしょうか?」
五十瓊敷入彦命からの声だ。しかし、どうして自分は神様と話ができるだろう?
「今の仕事がつらすぎて、疲労困憊です・・・もう心身折れそうな感じです。この先はどうなってしまうでしょうか?」
五十瓊敷入彦命はこう答えた。
「あなたの未来はちょっとわからない。ただ、言えることはひとつだけある。長期的に休職し、耐えられずやめてしまう可能性が高いかな。こんな時は、周りからの支援を受けるといいでしょう。ただ、親には気を付けて」
「あ、ありがとうございます。どうか世のため人のために・・・」
なんと、アドバイスをもらえたではないでしょうか!!
声に出して思いを伝えるだけで、神様からヒントがもらえる可能性が高くなる。
金龍から頂いた参拝術で、本当に願い事が通りやすくなった。
ぜひ皆さんもやってほしい。
五十瓊敷入彦命との会話はまだ続く。
「いい金色の龍神様を仕えているんだね。トシユキさんって、龍の生まれ変わりなのかな?」
「いやぁ・・・ただの精神障害者ですよ。そんな俺が、龍神の生まれ変わりだなんて・・・あるのかな?」
「精神障害者だなんてただのレッテルだよ。これまで多くの神社を回ってきたトシユキさんがここにいるだけで、私は癒しになりますよ。だって、あなた自身が龍だから・・・」
自分自身が龍?どういうことだろうか?
「えっと、俺はただの人なんですが、どうしてそう言えるのですか?」
「それはこうして神様と会話ができるからですよ。どうして龍なのかは、そのうちわかるから安心して」
「あ、ありがとうございます。またお会いしましょう」
「こちらこそ、遠方から起こしいただいてありがとう」
こうして、伊奈波神社の参拝を終えた。
「よし、いいヒントをもらえたし、御朱印をいただいて帰ろう」
すると金龍がまた何かを言い出す。
「じーさん、ここに高龗という龍神様がいるゾ。本殿だけ参拝して帰るだなんて、もったいないゾ・・・」
本殿からすぐ右手に見えるのが「福徳黒龍大神」と書かれている社があり、伊奈波神社の摂社にあたる。
「もう閉門の時間が近いよ。お参りしていたら社務所が閉まっちゃうよ」
「閉まったらそれまででいいじゃないか。とにかく、高龗に会っておこうゼ!」
金龍の言われるがままに、福徳黒龍大神へ足を運び、参拝することにした。
金龍の神社参拝術
‣摂社と末社も参拝する
「黒龍大神さん、お参りさせていただき、誠にありがとうございます」
声に出して、お参りすると・・・
「その姿、トーシャか?」
トーシャ?誰のことだろうか?
「いや、俊幸です。名前を間違えるだなんて失礼ね!!」
「あれ?人違いかな・・・?それにしても、顔つきがどう見ても龍にしか見えないんだが・・・」
ここで金龍が割り込んできた。
「トーシャって、確か九頭龍様の側近で有名な老龍の名前だが・・・九頭龍様、まさかオイラがトーシャ様の介護をするだなんて・・・」
「おい、どうした金龍?」
「トーシャじーさん、高龗様と遊んでいい?」
「ちょっと、俺はトーシャじゃないって!!」
「もういいじゃないか。これからトーシャじーさんって呼んでいい?」
「・・・・・」
九頭龍大神の側近に仕えていた有名な老龍とは一体・・・
それはさておき、いきなりトーシャって呼ばれるのはちょっと嬉しいかも。
「ほう、この人、やっぱり龍の生まれ変わりだったのか、九頭龍のやつ、とんでもない龍を人に換えてしまったんだな・・・」
「高龗様、さっきから老龍の生まれ変わりだの九頭龍の遣いなど、わけがわからん状況になっているんですが、なぜでしょうか?それに、トーシャっていう名前を付けられたんですが・・・」
高龗はこう答えた。
「そうね、九頭龍様に会えばわかるかもしれないね。ちょっと強引なやり方になるかもしれないけど、確実に会わせてあげるよ」
「ありがとうございます」
高龗との会話は、こうして進んでいった。
「あと、すごくかわいくてきれいな金龍さんを仕えているんだね。やっぱりトーシャは優れた人だよ。おっと、せっかくだから金龍に名前を付けてあげたらどうかな?」
「名前・・・ですか?」
龍神様に名前を付けるというのは決して珍しいことではない。
例えば「妻に龍が付きまして」の著者である小野寺S一貴さんの妻についている白龍は「ガガ」と名付けられている。
高龗のアドバイスをもとに、金龍の名前を真剣に考えることにした。
福徳黒龍大神社を後にし、残る摂社と末社すべてにお参りをして、社務所へ向かい、御朱印をいただいた。
注意しなければならないのは、御朱印はただのスタンプラリーではなく、れっきとした参拝証として取り扱うため、参拝後に受け取るのが鉄則である。
御守も同じく、やはり参拝後に受け取るのが鉄則である。
で、ここの御朱印は2種類あって、本殿の御朱印と、福徳黒龍大神の御朱印がある。今回は両社とも参拝したので、両方いただくことができた。
そんな帰り道。
「どうしようかな~?」
「トーシャじーさん、どうしたの?」
「アンタの名前をどうするか悩んでいるんだよ。高龗から『名前を付けてあげたらどう』って言われてだな、今真剣に考えているんだ」
「オイラは別にいらないゾ。なくても平気だもん!」
「いや、アンタ、俺をいきなりトーシャじーさんって呼び出すだなんて驚いたぞ。それに、老龍の生まれ変わりだなんて、デタラメもいいところだ」
当然ながら、前世そのものを信じていなかった。というのも、神社参拝を始める前まではT教の信者かつリアル重視で生きてきたので、スピリチュアルのことなど全く関心がなかった。
それよりも、金龍の名前をどうしよう・・・
1月末に、いつものキツイ仕事をしていた。その時に、材料となる品名を見て思いついた。
「おっ?この名前であれば気に入ってくれそう・・・」
仕事の時ももなぜか一緒にいる。ということで、休憩時間に語り掛けることにした。
「金龍さん、ちょっといい?」
「ハーイどうしたのー?」
「これから『クオーレ』って呼んでもいいかな?」
「お~渋いなぁ~。こういうの好きよ~♪嬉しいなぁ~名前をいただけるなんて」
「まぁね。最近仙台の白い龍神にも名前があるからね。これくらい見習っておかないとね」
上機嫌になった金龍さん。どうやら渋い名前が好みだったようで、すぐに気に入ってくれた。ただ単に一部の材料名からとっただけなんだが・・・
「いいぞ~トーシャじーさん。これからもヨ・ロ・シ・ク・ネ♪」
「これからもよろしく。クオーレ」
こうして金龍との交流を深めていき、しんどくなる一方の仕事でもなんとか頑張れるようになっていた。
月末になると、あることに気が付いた。
「あっ、御朱印帳が一杯だ。2冊目はどこの神社の御朱印帳にしようかな?」
去年の9月から始めた御朱印集め。最初の御朱印は出雲大社のものだった。
数多くの神社を巡っては御朱印をいただいた。もう残り1枠となっていただなんて、あっという間だった感じがした。
2冊目で気になっていた御朱印帳は、龍神様が書かれたものにしようと決めていた。そしてSNSなどで調べていくうちに、九頭龍大神の御朱印が見つかった。
「これは・・・カッコイイ♫」
場所を検索すると、東京都の檜原村でいただけるというものだった。檜原村に九頭龍神社があるのは初めて知り、ここで九頭龍大神と会い、2冊目を入手しようと予定を組んだ。
2月に入り、節分の日に車を走らせ、東京都檜原村へ。目的はもちろん九頭龍神社の御朱印帳の入手である。1冊目は事前に地元から少し離れた足助八幡宮で参拝をし、御朱印をいただいて完成させた。
万を期して九頭龍神社に到着。ここで九頭龍大神と会えるのは珍しいので、きっちりとクオーレから教えてもらった参拝方法を実施して挨拶をした。
「いきなり檜原村の九頭龍様のところへ行こうだなんて、トーシャじーさんの行動力はスゴイな。オイラも見習いたいゾ」
「親方に会うんだから、嬉しいだろ?」
「もちろん♪」
そして、九頭龍大神に挨拶をする。
九頭龍大神との会話が始まった。
「愛知県豊田市から来ました。林 俊幸です。九頭龍大神様、この度はここへお導きいただき、誠のありがとうございます」
「・・・久しぶりだな」
「戸隠神社の九頭龍大神と御祈祷をさせていただきました」
「やはりか・・・汝はどうしてここの存在を知ったのかね?」
「いろいろ検索をかけて探しましたよ。結果的にたどり着いただけです」
「ほぅ・・・」
「あの、どうかしましたか?」
「汝には思い出してもらいたいものがある。ここに来た以上、我の言うことを聞いて、その通りに動いてもらわないといけないからな」
「思い出してもらいたいものって何でしょうか?」
「それはまだ言えん。我の言う通りに動いてくれたら、絶対に思い出せる。どうかね?トーシャ」
「・・・わかりました。今はわからないけど、思い出す日が来るまで指示に従いましょう」
「よろしい」
こうした会話をして、九頭龍神社を後にした。
それにしても、思い出してほしいものって、何だろう?
社務所についたとき、早速九頭龍神社の御朱印帳をいただき、ついでに記入もしていただいた。ここの御朱印は、九頭龍大神の姿が描かれた判を押し、奉拝日を記入していただけるものだった。
檜原村を後にして、帰路についた。もちろん産土神への報告も欠かさず行った。
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