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第五話 白龍と白衣の黒龍
龍城神社から帰る前に、離婚して以降連絡が途絶えていた父親にに電話をかけた。
「もしもし?お父さん?俊幸だけど・・・」
「久しぶりだな~、元気かい?」
久しぶりの声を聞けたことに、感動をした。
親子って、意外と繋がっているものなんだな~
「それじゃ、今度の日曜日、道の駅どんぐりの里で待ってるよ」
そう言って、電話を切り、帰路についた。
ある日の夜、就寝につき、深い眠りに入ったとき、夢の中でこんな文字が浮かび上がってきた。
「なんだ?え?またこの不思議な文字が出てきたぞ。なんて読むんだろう?」
前に九頭龍大神から受け取っていた文字とにている。これは確かクオーレが言っていた「龍体文字」だったかしら?
「・・・びわこの・・・・り・・・」
琵琶湖の?誰かが語り掛けている?しかし、肝心なところが聞き取れない。
「びわこのりゅうじんにあいにいけ」
「だ、誰だお前は!?」
「我かね?おまえをずーっと見守っていた龍神だがね。わからんとかツレナイじゃないかね」
あれ?自分にはクオーレがいるはずだが・・・しかし、まだ声が続く。
「アホだね。耳塞いだってムダだぞ。我は今、おまえとテレパシーで話しているのだから」
「テレパシーってなんだ?」
「ぐはっwお前はアホで笑えるがね。耳で聞いているものではない。この世の植物や動物はテレパシーで気持ちを伝えあっているのだ。おまえも今、そのテレパシートーク組の中にいるのだよ。これまでも話していたではないかね。お前が我の声を聞き取れていたかは別として」
・・・・・・
ジリリリリリ・・・・・ジリリリリリ・・・・
「ハッ!!なんだ、夢か・・・・・」
なんか唐突に変な龍神様が夢に出てきた。それにしても、どこか読んだことがある本の台詞みたいに聞き取れたようだが・・・?
「起きたか?トーシャよ」
目が覚めたときはもうすっかり朝だった。で、なぜか九頭龍大神が目の前にいた。
「お、おはようございます。九頭龍様。さっき夢で変な龍神様が出てきたけど、あれは何だったのだろう?」
夢に出てきた龍神様が少し気になった。
「それは我に聞いても知らんぞ。で、我がここにいるということは汝はわかっておるかね?」
「次の指導ですね。お願いします」
「えらいな。ようわかっとる。それじゃ、準備したまえ」
「はい」
早速指導の準備に取り掛かる。
しかし、準備中に何かの声が聞こえる。しかも、この声はクオーレじゃない。
「琵琶湖の・・・・・龍神に・・・・・会いに行け・・・・・」
四ノ頭 あるものを頼れ
「それでは指導を始める。その前に復習をしようか。汝よ、以前我が言ったことをしっかりと実行できたかね?」
「もちろんできました。ずっと会っていなかった祖父に連絡なしでいきなり訪問しましたよ。ちょっと怖かったけど、やってみたらそんなにたいしたことなかったです」
「なかなかやるじゃないか。ちょっとやそっとで怯まず生きることができれば、どんな物事に対しても動けるようになるぞ。常に動き回る人は龍を乗りこなしているからな」
「ありがとうございます。少し思い出しました。なんか、いつも率先して動き回っていた感じがします」
「順調に龍の記憶を取り戻せているようじゃな。では次の指導に入るぞ」
「お願いします」
「汝よ、龍の背に乗るための要素は覚えているかね?」
「勇気・知恵・力ですね」
「そうじゃ。前回の指導は勇気を出す訓練をしたのじゃ。次は知恵を振り絞ってもらおうかね?」
「知恵ですか?」
「そうじゃ。まず、龍に乗りたいといっても、人にも性格があるように、龍にも性格というものが存在する。その中で乗りこなせるようになるにはどうしたらいいと思うかね?」
「えっと・・・相手を知ることからですか?」
「その通りじゃ。相手を知らずにいきなり龍に乗る人などおらんだろ?」
「確かにそうです。いきなり乗ったら振り落とされますよ」
「いいだろう、ではクオーレよ、トーシャを乗せてやれ」
「かしこまり~♪」
「お前この前教えてあげないとか言っていたくせに・・・」
「九頭龍様のご指導だから仕方ないね、早く乗るのだ!」
「いや待て、次元が異なる関係で乗ることはできないよ」
「そうかね?トーシャよ」
「え?どういうことでしょうか?」
「確かに、汝の住む次元と我々の次元は異なる。しかし、乗るという行為は、たくさんあるはずじゃ」
「乗る行為ですか?」
「例えば、物理的に乗るものといえば、バスに乗る、電車に乗る、飛行機に乗るといったものじゃ。それともう一つ、精神的に乗るものといえば何があると思うかね?」
「精神的に乗る?う~ん、調子に乗るとか、勢いに乗るとか、流れに乗るとか、それくらいかな?」
「いいところをついておるな。人と龍が住む次元が異なるため物理的に乗ることはできないが、唯一精神的な部分が共通しておる関係で、次元が異なっても精神的に乗ることができる。つまり、龍の背に乗るというのは、流れや勢いといった精神部分で乗るというものじゃ」
「物理的に乗るのではなく、精神的に乗るのか。これなら確かに理にかなっているね」
「よし、ここまで理解できたらいいだろう」
「ちょっといいかな?」
「ん?なにかね?」
「実は、療養生活が長引いた影響でもう精神的にズタボロ状態です。こんな状態ではとてもじゃないけど乗れる気がしません!」
「どういうことかね?」
「もう、お金がない、食料もない状態です、あとどれくらい持つのかわからない状態です・・・」
「そうか・・・厳しいこと言うけど、こういう状況を作ってしまったのはどうしてかね?」
「えっと・・・仕事から解放されたときに、神社のことしか考えていなくて、生活のことが億劫になって・・・」
「バカだなぁ~、神様に夢中になるほど参拝に熱心になるのはいいとして、生活を疎かにしたらダメじゃろう」
「すみません・・・」
「ま、これは自己責任じゃ。そうだな、せっかくだからこれを糧にした知恵比べをしてみようかね?」
「え?どういうことでしょうか?」
「今思いついたところじゃ。汝よ、今あるものでなんとかやりくりしたまえ」
「なにこの即席ラーメンみたいな指導は・・・」
「文句あるかね?」
「いや、ありません!!」
「これから今この場にあるものに頼り、常に感謝したまえ」
「はい。しかし、これにはどういった意味が込められているのでしょうか?」
「汝はこれまで『お金がない』だの、『時間がない』だの言っていただろ?」
「あ、はい・・・」
「こうして『ない!ない!』と言っていると、残酷なことに、欲しいものどころか、大切なものまで失ってしまう。それは自分の魂に『必要ない』と常に言い聞かせているものだ。すると、『ない』に視点を向けることによって、神様は『あぁ、いつもこれだけ与えているのにないと嘆いておる、これではもうすべてのものはもう与えない』と言って反応し、いろいろなものが無くなる。そして、ないからまた手に入れようとする、そして、何かを失うから、またないと嘆く。これでは悪循環に陥ってしまう」
「そんなの嫌だぁ・・・」
「汝も我と戸隠で出会う前はどうだったかね?思い当たることはないかね?」
「・・・・・数えきれないほどあります。しかも、今も引きずっていますよ。これ・・・」
「だろ?思い当たるところがあるなら、それを今から『ある』に切り替えてみろ」
「あるに切り替える・・・どうやれば・・・」
「なに、簡単じゃ。『俺には知識がある』とか、『まだ生活できるお金がある』とか、『困ったときに助けてくれる存在がいる』という『あるある思考』を持つのじゃ」
「あるある思考か・・・確かに、これなら簡単にできそうです」
「あるものを有効活用したり、あるものでやりくりしたりするだけでも、相当頭を使うはずじゃ。汝が持ちうる知恵を振り絞り、この先を生き抜くのじゃ」
「知恵がある・・・よし!やってみます」
「大事なことを言うぞ。ないものねだりはするな。あるものを頼れ!」
「はい!」
「知恵をうまく引き出すことができたら、龍を知ることができるはずじゃ」
「わかりました。では早速やります!」
九頭龍大神の指導が終わったが、日に日にある声がでかくなる。
「琵琶湖の・・・・・・龍神に・・・会いに行け・・・・」
誰かが自分を呼び掛けているのだろうか?
「なあクオーレ、さっきから変な声が聞こえるよ。琵琶湖の龍神に会いに行けっていう声がするけど・・・」
「今の声はオイラじゃないゾ。誰だろう?」
さっきから気になる。夢にも出てきたあの龍神はなんとなくガガ先生に似ていた気がする。
「せっかくだから、琵琶湖の龍神に会って遊びたいな♪どんな龍神様かな~」
クオーレが提案を仕掛けてきた。
「仕方ない・・・声の正体を突き止めないと、ノイローゼになりかねない。生活できる範囲のお金を残しつつ、九頭龍様が言った指導通りに知恵を振り絞って捻出してみるか・・・」
ここでクオーレがある行動をとった。
「そうだ!トーシャを乗せてあ~そぼ♫」
「え?どうやって・・・?」
「こうするのだぁ~!!」
「ちょ、いきなり何をくぁwせdrftgyふじこlp」
「やったぜ!だーいせーいこー!!」
なんと!体ごと乗っ取りはじめた!一体なにをしかけるつもりだろうか!?
「よーし、これでトーシャじーさんを精神的に一体となったゾ!」
「俺の身体を乗っ取るとは大胆なことをするなぁ。で、これから一体何をする気なの!?」
「それはこれからのお楽しみだゾ♪さーて、琵琶湖にレッツゴー!!」
「え?まだしら・・・ってうわああああああああああ」
半ば強引に乗せられたような感じがした。
もしかして、これが龍の背に乗るというものだろうか?
「トーシャよ、うまくクオーレに乗れておるかね?」
まだ九頭龍大神がいた。
「まだ、実力が伴っていない可能性がありますが、なんとか乗れています」
「よし、乗れているのを確認した。クオーレよ、トーシャを竹生島神社へ導いてやれ」
「竹生島ってどこ?」
「トーシャよ、場所はわかるかね?」
竹生島神社と聞いて、何か思い当たる点が見つかった。
すぐスマートフォンを出して場所を調べる。
「うわ・・・これは場所的にすごいな。全部船で行くしかないのか・・・」
調べている最中に、九頭龍大神があるものに目線を向かわせた。
「ほう・・・トーシャよ、その端末は何かね?」
どうやらスマートフォンが気になるようだ。
「これはスマートフォンと言って、通話から通信、情報交換や道案内などができる優れた道具です。これがあれば、竹生島神社の場所が一発で出てきます。写真撮影もこれでやっています」
「そんな便利なものを持っているとは大したものじゃ。で、場所はわかったかね?」
「問題ありません。案内しましょう」
場所がわかったところで、九頭龍大神がクオーレに指示を送る。
「それじゃクオーレよ、トーシャが場所を案内してくれるから、その指示に従って向かうのじゃ。そしてトーシャよ、しっかりとクオーレの背中に乗るのじゃ。くれぐれも振り落とされるなよ」
「アイアイサー!」
「了解しました!」
ここで初めて龍と連携をする。龍の背に乗るという意味は、大体理解できた。
九頭龍大神が去った後は・・・
「そういうことか・・・先に竹生島神社へ行って、残ったお金で生活をするということね。これなら後悔しない」
竹生島神社に向かう前夜、クオーレに乗り始めてからひとつわかったことがある。
それは、「先に何かしらの行動をする」というものだった。
先に行動をすれば、何かが起こる。何かを起こすためには、先に行動しないといけない。
これは、日常生活でも頻繁に起こる。
例えば、食事をしたければ、まず食材と調理器具をそろえる、調理方法を調べるといった行動や、レストランに行く、惣菜を買ってくるといった行動をとるはず。
どれも先に行動をしなければ、食事というゴールにたどり着けない。それどころか、ずっとスタート地点に立ったままだ。
またひとつ、知恵を学んだところで、竹生島神社へ行くための手段、費用、時間帯を調べていく。
そして、竹生島神社へ行った後、残ったお金で工夫をしながら生活をすることにした。
「まだなの?」
「もうすぐ案内できる。しかし、本当に俺の精神面を乗っ取るとは・・・」
「乗り心地はどうカッ?」
「すごく・・・速すぎます。戦闘機並の速さはあるかも・・・」
「そうカッ?これでもまだ実力は1%にも満たないゾ。本気を出したら光速を超えるからね」
「マジか・・・この程度で振り落されてはイカンな」
ここで気を付けておきたいことは、あくまでも物理的に乗っていることではない。精神面で乗っていることである。
こうして乗り心地を確認したところで翌朝を迎える。
「それじゃ、案内するぞ」
「じーさん、しっかりと捕まって!」
龍の背に乗った状態で、滋賀に入る。ただし、次元が異なるので、移動はいつもの自動車で行く。
向かった先は・・・多賀大社だった。
彦根に入ったあたりから、雨が降り出してきた。なんか、こういう大事な日に限って雨が降るのは、龍神様が呼んでいるからなのだろうか?
多賀大社は、御祭神が伊弉諾尊と伊邪那美尊で、全国の多賀神社の総本山。よく「お多賀さん」と呼ばれていたりする。
琵琶湖から離れているため、クオーレがすぐ違和感に気づいた。
「竹生島神社ってここなの?」
「ここは違う。多賀大社だ。間違えてしまった・・・」
「もしかして、トーシャじーさん、ボケてる?」
元が老龍だったせいなのか、そういわれてもおかしくはない。
しかし、せっかく来たのでお参りすることにした。
「仕方ない。一度ここで竹生島神社の場所を聞いてみよう」
いつもの参拝手順・・・では少しつまらなかったので、ここで前日に覚えたある祝詞を唱えてから参拝してみることにした。
「高天原に神留坐す神漏岐神漏美の命以ちて皇親神伊邪那岐大神筑紫の日向橘の小門の阿波岐原に禊祓ひ給ふ時に生坐せる祓戸の大神等諸々禍事罪穢を祓へ給ひ清め給ふと申す事の由を天つ神地つ神八百万神等共に聞食せと畏み畏みも白す」
この祝詞は通称「天津祝詞」と言われているが、神道では「身滌大祓(みそぎのおおはらい)」と呼ばれる立派なものである。
「愛知県豊田市から来ました。林 俊幸です。この度は竹生島神社へ行く途中でしたが、道に迷ってしまいました。イザナギ様、イザナミ様、どうか無事にたどり着けるように導いてください」
すると・・・
「来てくれたのねトシユキさん、ようこそ!」
「待っていたわ、トシユキさん」
なんと、本当に夫婦が出てきたではないか。
「あ、ありがとうございます。えっと、竹生島は・・・」
「大丈夫、船はここから出ているから安心して」
「よかった・・・」
まだ午前中だったが、果たして乗れるだろうか・・・
しかし、伊邪那美尊が唐突に話を進める。
「わ~すごいね!しっかりと金龍さんの背に乗れているなんて、あなたすごいわ」
「いやぁ、何度か振り落とされるくらいの勢いで来ましたが・・・果たしてこの後はどうしましょうか?」
続いて伊弉諾尊が話を続ける。
「今持っているもので恩恵を受けられそうなものを持っているかな?」
「えっと、九頭龍様が言っていた『あるもの頼り』の練習かな?だとすると・・・これかな?」
障害者手帳を取り出して見せてみる。
「イザナギ様、これがあることで、障害年金を受け取れたり、施設が無料になったり、バスが半額になったりします。このおかげで十分恩恵を受け取れています」
手帳を見せたとき、立て続けに話す。
「あ、2級って書いてあるね。だけど、もう少し恩恵を受け取れるようにしましょうか?」
「実はね、私たち夫婦は、何度も子供を産んできたけど、みんな障害児だったわ」
まさか神様が障害児を産むとは・・・しかし、国生み神話によるとあながち間違ってはいなかったりする。
「え?そうだったのですか・・・もう少し恩恵を受け取れるなら、等級を変えてもらおうかな?」
精神障害者保健福祉手帳の等級は1から3まであるが、1級が特別障害者で、2級と3級が一般障害者となる。
生まれつき発達障害と診断されており、さらにうつ病も発症しているため、もしかしたら等級が変わる可能性が十分あった。
この願い事に、夫婦は了承した。
「わかった。これからかかりつけの医師にしっかりと相談をしなさい」
「ありがとうございます」
「発達障害と診断されたのね。でも、私たちから見たらあなたは立派な神様の子供だよ。神社に行くとよく歓迎されるでしょ?」
「そうなの!?だから歓迎サインだらけだったのね。今も雨が降っているし・・・」
「だからこそ、あなた自身が神様だということを、どうか思い出して!」
「わかりました!」
こうして夫婦との会話を終えて、多賀大社を後にする。
「トーシャじーさん、場所はわかったの?」
「大丈夫だ、問題ない」
神は言っている。この船に乗れば行けることを・・・
「どうしたの?何かのゲームのセリフ?」
「あ・・・いや・・・・何でもない!」
彦根から竹生島行きの船が出ているのを確認し、乗船場へ向かう。
時間はお昼を回っていた。
昼食をとり、乗船場に到着。
「クオーレ、ここから船で向かう。いいかい?」
「アイアイサー!」
時刻表を見ると、次の船が最後だった。危ないところだった・・・
乗船券を購入するとき、値段を見てびっくりした。
「3000円って高すぎる・・・」
この時、手持ちのお金は6000円くらいしか持っていなかった。ここで乗るとなれば、手持ちのお金が半分になってしまう。
しかし、券売機をよく見ると、何かが書かれている。
《障碍者手帳をお持ちの方は、窓口にて割引券を発行します》
「お?これも『あるもの』を使えということだな」
そして、窓口へ向かい、手帳を見せてみた。
「お客様は障害者手帳をお持ちということで、半額の1500円で乗船できます」
乗船料が半額になった。これは大きい!
「ありがとうございます」
こうして竹生島神社へ順調に足を運んで行った。
待つこと20分、竹生島行きの船に乗る。
彦根乗船場から竹生島までは45分ほどかかる。
船に乗っている間、クオーレとの会話を楽しんだ。
「これが龍の背に乗るというものか」
「驚いたでしょ?思い立ったらすぐ行動に移す。これが龍の背に乗ることだゾ」
「そういうことね。てっきりガチでまんが日本昔ばなしに出てくる子供のように乗るものだと思っていたよ。けど実際は人に乗り移り、操っているのね」
なんとなく龍の背に乗るという意味が分かってきた。
「神様は、龍の背に乗るのがうまいんだゾ。だけど、人間は肉体を持っている関係で、同じように乗ろうとしてもうまくいかないんだゾ。どうしてこうなったかわかるカッ?」
今までずっと考えたことがなかった・・・
「ごめん・・・今まで考えたことがなかったよ」
「それはね、魂が関係してくるのだゾ。これは肉体を持たない神様や龍神、精霊や先祖霊といったものは、魂がむき出しになっている。なので比較的簡単に乗せることができるんだ。しかし、人間は魂が肉体の中にある関係で、乗せるには中まで入らないといけないんだ。本来ならだれでも龍神様に乗ることができるんだゾ。だけど、これができるのは生まれる前と、死んだ後に限るのだ。つまり、生きている間は肉体が邪魔で乗せられないんだゾ」
「そうだったのか・・・」
「そこで、九頭龍様は考えた。『人間は意思を持って生きることができる。この意思をうまく合わせることができれば、幸せに導ける』と言って、どうやったら人を乗せることができるのかを模索していたんだ。すると、ある白い龍神が提案をしてきたんだ。『人の魂を乗っ取り、肉体ごと動かしてしまおう』って」
その発想はなかった・・・
「つまり、龍の背に乗っている状態というのは、龍神様が人の肉体に入り込み、中にある魂を乗せていることなのね。で、乗せた魂を外に出すと人が死んでしまうから、中に入った状態で肉体を操っているということだな。つまり、俺は最初から操り人形だった?」
確かに、これなら本人に自覚がなくても、龍神から見れば十分乗せているように思える。しかし・・・
「惜しいな。正確に言うと、意思のある操り人形といったところだゾ。うまく人の意思と合わせないと、魂をうまく乗せることができないんだゾ」
「あ、だから龍とつながるための『意識が大事』というのは、魂をうまく乗せるために人間側にも協力が必要ということだったのね」
「そういうことだゾ♪その点でいえばトーシャじーさんは元老龍だったこともあり比較的簡単に乗せやすかったんだ」
「なるほどね。その白龍の発想はうまいな。で、その白龍が今琵琶湖にいるのかしら?」
しかし、クオーレは否定した。
「いや、琵琶湖にはいないゾ。今は仙台にいるという情報があるだけだゾ」
「仙台か・・・って、え?」
その白龍、もしかしたら、あの超有名な龍神ガガのこと?
こうしているうちに、竹生島に到着した。
船を降りて、竹生島神社へ。
しかし、ここでも障壁があった。
「ここ、入場料を取るのか・・・」
入場料は400円。そこまで高くはないが、少しでも節約したいところ。果たして障害者手帳は威力を発揮するだろうか?
係員に障害者手帳を見せる。すると・・・
「障害者手帳を拝見しましたので、入場料は200円になります」
やったぜ!ここでも威力を発揮した。
「ありがとうございます」
そして、竹生島神社へ足を入れる。
竹生島神社の御祭神は、市杵島比売命を中心に、宇賀福神、浅井比売命、そして龍神が祀られている。
この神社は、琵琶湖の北部にあり、島一帯がパワースポットとなっている。また、江島神社、厳島神社と並んで、日本三大弁財天として有名である。
本殿の一部は建て替えのため工事中だった。
最初に本殿へ挨拶。
「愛知県豊田市から来ました。林 俊幸です。この度は、竹生島神社へ参拝させていただき、誠にありがとうございます。もしかして、琵琶湖の龍神に会いに行けという声はあなたでしょうか?教えてください」
市杵島比売命の答えは・・・
「トシユキさん。久しぶりね。江ノ島以来じゃない?この前天女と五頭龍を感動させたでしょ?」
「あ、はい。確かに、江ノ島夫婦に神恩感謝の御祈祷をしました」
「御祈祷以降、あなたに会わせたかった龍がいたの。それが琵琶湖の龍神なのよ。それでずっと声を送っていたけど、なかなか届いていなかったわ。そこで、白龍さんと、白衣を着た黒龍さんに協力をいただいたの。ものすごく忙しいときだったのにわざわざ仙台から来てくれたから、かなり助かったわ。あ、もしかして、あの本買っていない?」
あの本?あっ・・・
「妻に龍が付きまして・・・ですか?」
「そうそう。その人が書いた本の最新刊は持っていない?」
「日本一わかる龍の授業と、龍神が教える命と魂の長いお話でしょうか?」
「お、すごいね。タカさんの本、あなたものすごく読んでいたでしょ」
「どうして知っているのですか?」
「あなたの家に置いてある神札から観察しているのよ。それくらいお見通しですわ」
「あ・・・そうでしたか。いつも見てくれてありがとうございます」
「それから、あの夢見なかった?」
「あの夢・・・?あぁ、確かすごく変な夢を見ました。ガガさんが最初にいったセリフとそっくりでした」
「あの夢が通じてよかったわ。こうして来てくれたから、あとは会わせるだけだわ。さ、琵琶湖の龍神は後ろの拝殿にいるわ。それじゃ、またね♪」
「あ、ありがとうございます」
あの夢の正体は市杵島比売命によるものだったのか・・・
それはさておき、琵琶湖の龍神に会う。
拝殿に立つが、右の看板に何かが書いてある。
《高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は大宇宙根元の御祖の御使いにして一切を産み一切を育て萬物を御支配あらせ給う王神なれば一二三四五六七八九十の十種の御寶を己がすがたと變じ給いて自在自由に天界地界人界を治め給う龍王神なるを尊み敬いて眞の六根一筋に御仕え申すことの由を受引給いて愚かなる心の數々を戒め給いて一切衆生の罪穢の衣を脱ぎ去らしめ給いて萬物の病災をも立所に祓い清め給い萬世界も御祖のもとに治めせしめ給へと祈願奉ることの由をきこしめして六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給へと恐み恐み白す》
「あっ、これは以前に箱根九頭龍神社で唱えたものと同じ祝詞だ」
これは「龍神祝詞」の全部が書かれたものだ。
実は、この龍神祝詞は、いつ成立したのかが分からない。おまけに神社本庁が定める祝詞一覧表にも載っていない。非公式の祝詞だったりする。
しかし、竹生島神社や戸隠神社等、主に龍神を祀る神社では時折唱えられている。竹生島神社に龍神祝詞が掲載されている看板があるということは、相当すごい祝詞だと容易に想像がつく。
「高天原に・・・・・」
せっかくなので、龍神祝詞を唱えて参拝をしてみる。
「愛知県豊田市から来ました。林 俊幸です。琵琶湖の龍神様、この度呼んでくださり、誠にありがとうございました。おかげさまで、無事に九頭龍大神の課題をこなして、ここまでたどり着きました」
「待ってたぞ!」
この声は?
「あなたは・・・?」
なんと、神々しい姿をした龍が目の前に現れた!
「俺は琵琶湖の龍だ。トシユキ、ここへ来てもらった理由を教えてやろうではないか」
「どういうことですか?」
「お前がなぜ、九頭龍と手を組むことになったのかを思い出してもらうためだ」
初対面なのに、いきなり意味不明な理由を突き付けられた。
「ちょっと、あなたとは初対面ですよ。どうして俺のことがわかるのですか?」
この質問に対して琵琶湖の龍神様の答えは・・・
「お前とは何度も会っておる。生まれる前からずっとだ」
「えっ・・・そうなの?」
「そうだ。そこにいる幼い金色の龍を引き連れて何度も来ておったのに、忘れてしまったのかい?」
もちろん生まれてきたときには前世の記憶など忘れている。そうしないとせっかくの舞台を自由に演技できないからだ。
「そりゃあそうですよ。人として生まれ変わったときには全部記憶を神様に預けてしまったからな」
「そうか・・・お前はどうして九頭龍に認められたと思う?」
「それはただ勝手についてきただけですよ。初めて戸隠神社に行ったとき、なんとなく雰囲気が懐かしいと思って九頭龍社に参拝したらこうなっただけです!」
「そんなショボい理由で九頭龍がついてくるわけないだろ。そもそもお前に何度も何度もお世話になったし、こうして琵琶湖を守る立場に上がれたのも、お前のおかげだ。お前、人として生まれるずっと前に、人々を救い続けておったからな。それも何十年とな。こうして九頭龍に認められて、今に至るからな」
「え?あなたを救った?それに、多くの人々を救い続けたということはどういうことですか?」
「お前はかつて水害から人々を守ってきた。ここにため池を作れとか、堤防を設けろとか、河川が氾濫したらここへ行けとか、多くの実績をもたらしただろ。それに、人に生まれ変わってから最初の夢は何だったのかな?」
琵琶湖の龍神様は幼い頃の夢を思い出せという。もしかして、あの頃に描いていた夢だろうか・・・
「確か、幼稚園時代だったころの夢は消防士だったかな?救助という仕事がやりたいと言っていた記憶があります。今はうつ病発症して実質無職ですが・・・」
「やっぱりな。お前が人として生まれてから子供時代を経て、夢は変わっていったのだな。だとすると、お前が使命を果たそうとして人に生まれ変わったというのに、生きているうちにどこかでずれてしまったと考えられる」
「え?ずれているとはどういうことですか?」
「簡単に説明するぞ。例えば、自動車で東京から大阪へ向かうとする。その時、東名、新東名、伊勢湾岸道、新名神、名神と進めば無事に大阪へ着く。しかし、大阪へ向かうのに東北道を走っていたらどう思う?」
「明らかに間違ったほうへ向かっています」
「そうだ。そこで、神様が『こっちじゃない』と目印を送る。大阪へ向かうのに、標識が宇都宮と出てきたらびっくりするだろ?」
「そうですよ。この時点で気づくはずです」
「それでも気づかずに無視して走り続けたらどうなると思う?」
「えっと、取り返しのつかないところまで来てしまいます」
「その通り。気が付いたらもう手遅れになってしまう。こうならないために、神様や龍神様は日ごろから印を送り続けている。しかしだ」
琵琶湖の龍神様がなぜか嘆いていた。
「間違った方向に進んでいるという印を送り続けているにもかかわらず、気づかない人が多すぎる。そのせいで手遅れになって死んでいった人をどれだけ見てきたか・・・」
悲しい事情を聴き、なんと思えばいいのかわからなくなった。
しかし、疑問が残る。生まれる前に神様と約束をしたのに、生まれてからはすっかりと忘れてしまっている人が大多数を占める。これはお子守さんが「忘れてくれていたほうがいい。むしろ最初から覚えている状態で生まれてしまうとその人に弊害が生じてしまう」と言っていた。
そこで、琵琶湖の龍神様に、約束の思い出し方を教えてもらうことにした。
「あの、間違った方向に向かっている原因のほとんどが、神様との約束を完全に忘れてしまっているからだと思います。そこで、神様との約束の思い出し方を教えてもらえますか?」
「いいけど、話が長くなりそうだ。もうすぐ船も出る時間だから、船に乗ってから話そうか」
「ありがとうございます」
これはありがたい。そして。
「まもなく、彦根港行最終便の船が出ます。ご利用の方は、乗船場にてお待ちください」
とアナウンスが聞こえた。
もうすぐ船が出るので、拝殿を後にし、乗船場へ向かった。
帰りの船。気が付いたら雨は止んでいた。
「クオーレ、楽しかったか?」
「もちろんだゾ♪また遊びたいな~」
無邪気でかわいい幼き金龍の姿を見た琵琶湖の龍神様は、竹生島神社を離れてもついてきた。そして話を続ける。
「へぇ~、その幼い金龍、クオーレというのか。どうして名前を付けたの?」
「この子、高龗様からアドバイスをもらって名付けたよ。仙台の白龍は『がーがーうるさいからガガ』と名付けられたみたいだし、今は白衣を着た黒い龍神と一緒に行動しているよ」
「知っているのか、龍神ガガについて」
「そうだよ。妻龍の本が大ヒットしているからね。ガガシリーズの本は3冊持っているよ」
「そうなんだね。ではさっきの話の続きをしようか」
「はい」
生まれる前の約束を思い出すための手順を教えてもらえた。
「思い出す手順は3つ。1つ目は自分の名前、二つ目は興味や関心、3つ目は幼少期の夢。この順番で思い出していくといい」
「なるほどね」
「1つ目は、自分の名前に注目する。お前は確か『俊幸』と書くよな。その漢字の意味を調べたり、音節を並べたり、言葉の意味を調べたりすれば、大体生まれる前の約束のヒントを見つけることができる」
早速スマートフォンで・・・と調べたいところだったが、琵琶湖の中心にいたため圏外で調べることができない。
可能な限り音を刻んで読んでみたが、やっぱりわからない。
「う~ん・・・これだけではわからないな~」
「まだわからないなら、2つ目の手順を踏んでみるといい。今、興味や関心があるものは何?」
「興味関心があるのは、トラックドライバーと、ボウリング、あと龍神と全国の神社、それに旅行かなぁ?」
「そうか、これはお前がこの世に生まれる前の姿がわかるというものだ。お前の場合、トラックに興味があるのは祈りや魂を運ぶ仕事をしていたこと。ボウリングに関心を持っているのはボールの形が龍の宝珠に似ていること。旅行が好きなのは自由に生きていたこと。つまり、お前の前世は龍神そのものだったと言える。その人の興味や関心というものはそれぞれ異なる。これは生まれる前の約束だったり、前世の記憶だったりと、様々なパターンが挙げられる。そして、ここで3つ目の手順に移る」
「お?これはもしかして?」
「幼少期の夢は何だったのかを思い出せ。小学校に入学する前の夢が生まれる前の約束に一番近い。これは生まれて間もないから、鮮明に記憶が残っていたりする。さっき言っただろ。消防士になるって。それがお前に課せられた使命というヒントそのものだ」
「今更消防士になれと言われても・・・」
年齢的に、そして学力的に消防士にはなれなかった。しかし、琵琶湖の龍神様はこう言った。
「別に、人を救う方法なら消防士だけとは限らないだろ。自衛隊でも十分通用するし、直接ではなくても魂を救うヒーラだとか、はてや神社の宮司さんでもいいだろう。要するにお前はどのように人を救うのかを、お前自身が決めるということだ。人を救う方法に正解はない」
「そういうことね。方法は俺にかかっているということか・・・」
こうして、琵琶湖の龍神様から素晴らしい知恵をいただいた。ここでクオーレが話かけてきた。
「トーシャじーさん、もうすぐ船が着くよ」
この一言を聞いた琵琶湖の龍神様は驚いていた。
「お前まさか・・・あの老龍・・・!?」
「え?老龍とは聞いたことがないな~。ただクオーレが勝手に言っているだけだよ」
もうすぐ彦根港に到着する。
琵琶湖の龍神様が最後に放った一言。
「どうして人に・・・頼む!俺が言った教えを広めてくれ!!」
「わかったよ。じーさんらしく広めてやるよ。あなたは引き続き琵琶湖を守るのだよ」
こうして琵琶湖を後にして帰る。
後日、ツイッターでガガ祭りの情報が入ってきた。
そして、引用ツイートで「行きます」と宣言したところ、タカ先生とワカ先生から「いいね」が送られてきた。
また、ガガが書いたとされる「命と魂の長いお話」という本を読み、感想をツイッター上で述べたところ、なんとタカ先生から返信で「ありがとうございます」と来たことに驚いた。
これは、行くしかない!!
タカ先生が伊勢神宮へ行った様子を公式ブログで確認したのを機に、タカ先生になりきった気分で伊勢神宮へ向かったり、多度大社へ行ったりした。平成もあと1週間で終わる。
2冊目の御朱印帳も、平成最後の日に完成させ、また新たなる1冊を片手に旅することにした。
琵琶湖の龍神様の教えについては、どのように広めていくか・・・
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