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 あなた。  そう、いまこれを読んでいる、あなた。  今回の超短編グランプリ、審査担当の、あなた。  いまは、昼ですか?  それとも、夜?  場所は、オフィス?  それとも、ご時勢がら、リモートワークで、自宅リビング?  家では集中できないので、近所のファミレスかも知れません。  あるいは、カラオケボックス。近頃ではリモートワーク用のコースもあるそうですから。  オフィスやファミレスなら、周りに人がいる。  自宅やカラオケボックスなら、一人きり。  でも、人がいてもいなくても、小説を読むのは孤独な作業です。  毎回毎回、気が遠くなるほどたくさんの応募作が集まり、そのすべてに目を通すのが、あなたの仕事。  眼精疲労の目に、目薬など差しながら、画面をスクロールしてひたすら物語を追う。  傍らにはコーヒー。もしかすると、スタミナドリンク。  刻々と時を刻む壁の掛け時計。  しかも、ただ読むだけではなく、評価をしなければなりません。  超短編グランプリの最高峰、漱石賞(賞品はネコのキーホルダー)には、どの小説が相応しいか?  第二位の、龍之介賞(賞品は河童のワッペン)には?  第三位の、鴎外賞(賞品は舞姫スタンプ)には?  ところで余談ですが、藤村賞を設けて、家を賞品にするというのはどうでしょう。私、そろそろぼろアパートから脱却して、一戸建てに住みたいのですが。  いえ、冗談です。そんなことをしたら、御社はすぐ潰れてしまうでしょうね。  閑話休題。  もちろん小説が好きで、あなたはこの仕事を選んだことでしょう。  しかし、いくら好きでも、ものには限度がある。  時にはもう、小説なんて、一行も読みたくない、と思う日もあるはず。  あなたが勤める小説投稿サイト運営会社は、ブラック企業ではないと信じますが、だからと言って働き方改革が進んでいるかどうかは別の問題。  深夜残業して読まなければ終わらない、などという日もあるでしょう。  その時、血沸き肉躍る作品で、快調に読み進められるならまだしも。  そうでなかった場合。  文章がぎこちなく、中身もさほど面白くない。  自己顕示欲の塊で、何も共感するところがない。  登場人物のキャラも、オチのアイデアも、似たようなものを山ほど読まされている(まあ、お題が決まっている以上、ある程度仕方がないにせよ)。  そんな応募作が続いたら、いくら小説愛に満ちていても、うんざりすると思います。  あ、この小説がまさにそうだと?  だとしたら……  とにかく、せめて先を急いで、少しでも早く終わらせましょう。
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