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 家の門から現れた豪田直。  そのすらりとした長身と長い脚を包んでいるのは、セーラー服。  そう、なんと、豪田は、女子だったのです!  なるほど、「なお」という名は、女子にもあります。  しかし、その場合「奈央」とか「奈緒」とか「菜緒」といった漢字が当てられるのが通例。  なのに、「直」とは!  一瞬、これは妹かも知れない、と思いました。  しかし、盗み出した個人情報から一人っ子であることはわかっていたのです。  間違いなく、豪田直は女子。姓名判断による画数の関係か、「直」という男の子っぽい字に命名され、名字までもが「豪田」という、これまた男臭い字面であったために、すっかりミスディレクションされてしまったのでした。  しかも、カワイイ!  あんなに憎んだ豪田直が、こんなにも愛らしい美少女だとは!  いや、何もブスなら殺していいということではありませんが、それにしてもこの透き通る白い肌、円らで潤んだ瞳、ふっくらした桜色の唇、バラ色の頬、細くて高い貴族的な鼻梁……  呆然とする私の目と鼻の先を、豪田直は何も知らず駅の方へ去って行きます。長い髪がふわっと風に踊り、シャンプーの甘い香りが私を撫でて消えました。  行き先は桜田高校とわかっていますから、その日は顔の確認だけをして引き上げる予定でしたが、私はふらふらと彼女の後を追っていました。  豪田直の可憐な後ろ姿。  ほっそりした長い脚が、制服のスカートからちらちらと白いふくらはぎを覗かせて、引き締まったウエストが滑らかに揺れる。  その清潔な色気に目を奪われたまま、私は直に従って電車に乗り、桜田高校正門に着いてしまったのです。  校舎に去って行く直を見送りながら、私は自身に問いました。  どうする、私? と。  美少女だからといって、悪文が許されるはずもない。  いえ、美少女だからこそ、美しい日本語を書くべきだ、という考え方もあります。  しかし……豪田直は、摘むには余りにせつない花でした。  迷う私は、その時、ふと思い出したのです。  ついこの前、直が提出した小論文。 「幕末、開国を推進していた大老を、尊王攘夷を掲げる水戸藩浪士が暗殺した事件の意義について400字以内で述べよ」の回答。  この中で直が、「桜田門外の変」を「梅田門外の変」、「大老井伊直弼」を「大老井伊根直弼」と誤表記していたことを。 「梅田門」だと!  梅田は大阪だろ! 「井伊根」とは!  SNSの「いいね」じゃないっ!  蘇る怒りに悶絶しながら、私はそこで驚愕の暗合に気がついたのです。  そうか、ここは桜田高校正門。つまり、桜田門だ!  そして井伊直弼には、「直」の文字が……  これはやはり、直がこの門の外で死すべき運命にあるという、天の啓示ではないか!  私は、ポケットに忍ばせた、刀ならぬナイフを、そっと撫でました。桜田門に散った水戸藩浪士の魂が、この身に宿ったと確信しました。
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