『赤い雄鶏』

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 発情抑制剤(赤い雄鶏)を用いていながらも、全く相反した言い様だとは自分でも分かっている。 研究を行なうのでなければ、こんなものを使う理由がまるでなかった。 ――それ程までに少子化の解消は急務だ。  受胎が確実なΩ種は、大変貴重な存在だった。 例え不確定であっても、その性質を有している『チェンジリング』も又Ωに準じられる。  先ず、取り敢えずは受胎をさせてから経過観察を行なっていく研究方法(アプローチ)でも可能ではないのだろうか? 俺は頭ではそう考えながらも、手では全く違うことをしていた。  ただでさえ小さな、――小指の爪の半分にも満たない錠剤を真ん中に走る線で割った。 その半分の欠けらを出した舌の先に乗せた。  だと、俺はそう判断した。  門倉の顔へと自分のを近付ける。 彼が首を起こし、伸ばそうとすれば錠剤を乗せた俺の舌先に触れられる位置で待った。  舌の裏側に唾液が溜まっていくのを感じる。 単なる生理現象なのか、それとも期待でなのかは自分でも分からなかった。 もしも期待でだとしたら、そもそも何に対するものなのだろうか――?
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