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世界が少子化の一途をたどるのは至極当然――、必至だった。
しかし、人類はただ手を拱き座して滅びを待っているわけではない。
俺を含む研究に携わる者たちは皆、そう考えているだろう。
門倉眞幸も又、その一員だった。
少子化を改善させるがために研究職へと就いたはずだった――。
その門倉の目に焦点が戻ってきた。
頬骨の頂よりも紅い唇が動いた。
「最初に礼を言わせてくれ」
「・・・・・・」
開口一番、何を言うのかと待ち構えていればそれか⁉
驚き呆れてとっさに返せないでいる俺に向かって門倉は、
「ありがとう。本当に救かった」
と有言実行、――実際礼を言ってきた。
先手必勝、俺はすかさず門倉へと釘を刺しにかかる。
「取り違えないでくれ。善意でしたことじゃない」
聞いた門倉は特に気を悪くした様でもなかった。
――少なくとも俺にはそう見えた。
極めてあっさりと応じてくる。
微笑みめいたものさえ浮かべていた。
「分かっている。拘束を解いてくれないか?話しづらい」
「あ、あぁ・・・・・・」
声も先ほどまでとはまるで違っていて、静かで平らかだった。
俺が体を実験台へと固定するベルトを外すと、門倉はゆっくりと上体を起こした。
慎重な動作だと思った。
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