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本来、発情状態の個体に直接触れることは交合に至るまで禁止されていた。
制御不能になる可能性を考慮したためだった。
しかし、俺は極わずかに動いた門倉の口元の斜め上、頬に人差し指を当てた。
たちまち先が沈み落ち、吸い込まれていきそうになる錯覚に陥る。
溶けて崩れそうなほどに熱く柔らかい頬だった。
――体の、他の箇所もそうなのか?と、期待を煽られる。
俺は門倉の頬を手のひら全体で撫で回したい欲求をどうにか抑えた。
そして、言う。
「話す?――一体、どうやって?」
欲情を紛らわすためにも、俺は無理矢理に笑ってみせる。
「・・・・・・」
案の定、門倉は俺の問いかけに口を閉ざした。
一度発情状態が開始されると最長で一週間、最短でも三日間は続く。
その間に受胎、妊娠をすれば発情状態は停止、終了する。
それ以外にまともに話をするには、抑制剤を服用するより他に方法はなかった。
門倉の『妖精の門』が開いているということは、発情抑制剤の効果が失われていることを示している。
ただ単純に、抑制剤の備蓄を切らしてしまったのか?
研究所勤務の身分とはいえ、支給される抑制剤の割り当てはけして多くはない。
算出される用量のギリギリだった。
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