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『チェンジリング』であることを隠し続けてきた門倉には予備などなかったはずだった。
よく今まで隠し通せてきたとさえ、感心すらする。
だから、今一つ研究に打ち込むことが出来なかったのだろうと俺は踏んだ。
――それとも何らかの理由で、あえて自ら服用を止めたのだろうか?
そこまでは分からない。
『チェンジリング』において発情状態の開始は、『妖精の地の門が開く』と表現される。
長いので『妖精の門』、もしくは『門が開く』と省略され用いられる。
その門をくぐり抜けて子供へと――、受胎へと至る。
そういう意味合いで名付けられたと聞き及んでいた。
門倉は全く黙り込むかと思っていた。
しかし、たった一言だったが荒い息の合い間からつぶやきを零す。
「『ティターニア』」
「え?」
思わず聞き返した俺に、今度はちゃんとした文章を発音し門倉は告げた。
「『ティターニア』について、詳しく知りたくはないか?」
かなり苦しそうではあったが、その顔は微かに笑っていた。
――俺には確かにそう見えた。
「・・・・・・」
次は俺が黙る番だった。
「しばしの間、沈思黙考に耽った」と言い換えてもいいだろう。
『ティターニア』とは、妖精の王とされているオベロンの伴侶にして女王の名前だった。
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