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『赤い雄鶏』
俺と目が合った門倉は「本当か?」と、物語っていた。
もちろん声には出さずに、否、だせずにだった。
俺はそんな門倉へと実に分かり易く、――わざわざ見えるように白衣の胸ポケットからピルケースを取り出した。
薄っぺらい金属製のそれの上蓋をスライドさせ、中から発情抑制剤の錠剤を取り出す。
錠剤本体の色で分かったのだろう。
門倉が息を、唾を飲み込む大きな音を俺は確かに聞いた。
薬の色は目にも鮮やかな赤をしていた。
通称、『赤い雄鶏』
『チェンジリング』の発情状態に顕著に効果を発揮する抑制剤だった。
開いた『妖精の門』が閉じる朝の訪れを告げるのが雄鶏だから。というのが命名の理由だった。
それと、『炎』という意味をも持っていた。
熱を火、炎で制するのは一見、辻褄が合わないことのように思われる。
これは、取り替え子であるか否かを火の上にかざして確かめたという伝承に由来する。
その際には、
「燃えろ、燃えろ、燃えろ、――悪魔のものなら燃えてしまえ!」
と唱えたらしい。
さしずめ俺だったら、
「燃えろ、燃えろ、燃えろ、――Ωならば燃えて受胎してしまえ」
とにでも言い替えたいところだった。
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