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「お疲れ様っ」
扉を開けると、珍しく母親が笑顔で出迎えてくれた。
誠也の母親は仕事で忙しいので、こんなことをしてくれる事はあまりない。
してくれたとして、運動会や、受験などの大きなイベントがあった後か、もしくは自分の頼みたい用事がある時のどちらかだ。
今日は大分疲れているので後者であってほしくないと願いながら、誠也は着替えや手洗いを済ませ食卓に着いた。
「え、何? 今日めっちゃ豪華じゃね?」
「ふふ、そうでしょ? 誠也天ぷら好きだから、頑張った」
四人がけの小さめのテーブルには、誠也が好きな刺身や天ぷらが並んでいた。
しかも刺身はとろや大きなサーモンなど、高そうなものばかりだ。
お吸い物も付いている。
誠也はおかしいと感じた。母親は、平日は手間のかかる天ぷらなんてぜったいにしない。
(何かある)
しかも、母親は、誠也が来るのを待ち切れずに、食事に手を伸ばそうとしていた弟の芳樹の手を叩いていた。
いつもはそんな事、しない。
芳樹が誠也を待たずに食事を始めても、何も言わない。
(なんなんだ)
疲れ果てた誠也の頭に嫌な予感が過ぎる。
彼がいただきます。と、天ぷらを口にした瞬間に
「あのね、せいちゃん」
ニコニコとした顔に猫撫で声で、母親が誠也を呼んだ。
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