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「実は、頼みたい事があるの」
予感は当たっていた。と、つゆも塩もつけ忘れた天ぷらをパリパリと噛みながら、誠也は思った。
(怖い。怖い。怖い。……頼みってなんなんだ?
今日は俺、めちゃくちゃ疲れているんだ。
どうか、どうでもいい頼み事であって欲しい。
電球を替えて欲しいだとか。
アプリの取り方を教えて欲しいだとか。
せめて、その程度であって欲しい)
誠也は食べながら強く願った。
母親の頼みが、簡単な内容である事を。
「内容によって決めるけど、何?頼みって」
恐る恐る訊くが、彼には嫌な予感しかしない。
「ああ、……その、あのね」
人差し指同士を絡み合せながら、言いにくそうにしている母親。
その仕草から、もう面倒くさい内容だと言っているようなものだった。
誠也は思わずため息をつく。
「担当直入に言います」
「はい?」
「私の知り合いの娘さんと、同居してください」
「…………。は?」
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