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文化祭でホラー映画を見たんだが。
僕は見てしまったんだ。
窓越しに見えるクラスメイト達の顔が、狂気な笑みを浮かべているのを。
たまたまバイトが休みだったその日。僕は、母に誘われて弟の通う高校の文化祭に来ていた。
僕の時代はクオリティよりも馬鹿さを重視してたから、そりゃあもう驚いたね。近代的で、なんかすげーって語彙力失ったもの。
特に映画上映が人気だった。チケット取れなくて見れない、って嘆く奴も廊下にちらほらいたよ。
配られたチラシとか、あちこちで放送されてるCMみたいなもので、楽しそうに放送されていたからだろうね。僕も見たけど、高校生が作ったにしてはずいぶん本格的だった。すごかったよ。
一応僕も、チケットの抽選に応募した。結果は惨敗。母も笑って落ちたわ~って言っていた。けど、そこに弟が来たんだ。
「チケットやるよ。俺のクラスだし、せっかくだからさ」
一方的に言うなり渡されたチケット。返事する間もなくどっか消えたけど、優しい弟だなって母と笑ったよ。ただ、その時は弟が、なんであんな焦った顔していたのか、わかんなかったけど。
で、映画の時間になった。
とはいえ上映時間はたったの二十分。映画の大まかなあらすじと、注意、エンドロールも含めてだから、映像自体はそう長いものじゃなかった。
でもまあ、聞く限り、とても面白そうだって思ったんだ。
***
黄昏時の教室。彼女は立っていた。
頬を赤らめ、ほんの少し口角を上げて、言いにくそうにうつむく姿。
その前には、一人の男子。
彼女はふと彼を見て言った。
「――好きです」
***
ずいぶん甘い告白シーンだ。でもなんだか違和感を覚える。
僕は首を傾げた。スンスン、と嗅いでみる。少し、鉄臭い気がした。
だが、隣に座る母を見たが、特に気にしている様子もない。
気にせいだろうか。
そう思ってもう一度嗅いだ時にはもう、わからなくなっていた。
まあいいか、と僕はまた、映像に目をやる。
***
「えっと、うん。ありがとう」
恥ずかしそうにそういう彼。その姿は太陽を背にしているせいか、ずいぶん陰って見える。
その影が少し、揺らいだ。
「――でも俺、まだ君のことちゃんと知らなくて」
言いかけた彼を遮って、彼女が言った。
「これから知っていけばいいよ。お試しでも構わないから」
「それくらいの覚悟で、あたしは……」
涙ぐんでいるのか。
手を目元に当て、少し鼻をすする音がする。
彼はそれを見て動揺したように揺らいだ。
「それでも、ごめん。だって――」
パッと照明がついた。
教室の照明だ。もちろん、僕のいる教室の。
そしてもう一つの。
「き、きゃあああ」
「うわああああああ」
途端に叫び声が響いた。大人もなりふり構わず叫んで、教室に待機していたその映画製作者すら、顔を引きつらせていた。
僕なんか、叫びに圧倒される前からもう、息を飲んでしまったよ。だって―。
そこに映っていたのは、血塗れになった首吊り死体、だったのだから。
そりゃあもう、怖かったね。最初にホラー映画だって聞いていたとはいえ、声はマイクではなくその場でアフレコだったし。演出のために教室の冷房だけガンガンにしててさ。もう寒いったらありゃしない。
でもまあ、人気だったよ。
中途半端に作られたお化け屋敷よりもずっと怖いんだから。もちろん僕も母も、フィードバックに面白かったって返したさ。高校生にしては上出来だったから。
だけど、弟には不評だったみたいだ。
文化祭が終わって帰ってきた後も、あいつの顔は強張っていた。
疲れたのかと思って、僕は労うように言った。
「あの映画面白かったよ。すげえ本格的でさ。死体とかリアルだったなあ。誰がやってたんだ?」
母はキッチンにいたが、大きな声で「そうそう! ずいぶんイケメンな子だったわねえ!」と叫んだ。
僕は笑い、弟の肩をポンポン、と叩く。
「もう終わったんだし、ネタバレしてくれてもいいだろ」
だが、弟はふるふる、と首を横に振った。そして言ったのだ。
「あの死体は、本物なんだ」
翌日のニュース。
とある高校の校舎の裏に、一人の男子生徒の死体が中途半端に埋められているのを今朝、女性教師Aさんによって発見されました。犯人はいまだ特定されていませんが、クラス内ではいじめが行われていたらしく――。
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