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プロローグ
『先生、すみません』
その一言を見た瞬間、私はベッドにスマホを投げ捨てた。
どうせ、その先に何が書かれているのかは容易に予想できる。
『また駄目でした』
『私の力不足です』
『本当にすみません』
これで何通目だろう。
プロットを書いては、不採用。書いては、不採用。プロットを読んだだけで、企画としては採用されない。プロローグのプの字も書けない。
まるで、私に”才能なんてない”、そう言われているみたいだ。
私には才能があると思っていた。
中学生の時に、新人賞を受賞して、華々しくデビューした。選評も良かった。尊敬している先生からも褒められた。
――私には才能がある。
そう確信した。でも世の中、そう甘くなかった。
私が褒められたのも、ちやほやされたのも、全て過去の話だ。
作家・安堂楓の劇は、一瞬で幕を下ろした。
本を出版すれば、酷い言われよう。評価も最悪だ。
一度、気になってエゴサーチをしたことがある。最悪だった。何もかも、全部最悪。一つ一つ読んでいっていたら、吐きそうになるほど気分が悪くなった。それだけ、酷い言われようだったのだ。
私には才能がある。
そう思っていた自分が恥ずかしくなった。自分を殴りたくなった。舞い上がっていた自分が嫌だった。
才能なんてもともと無かった。
私に才能なんて甚だ無かったんだ。
私は長いため息を吐くと、ベッドに投げ捨てたスマホを拾い、担当さんから送られてきたメッセージを見る。
『先生、すみません』
『また駄目でした』
『私の力不足です』
『本当にすみません』
ああ、やっぱり私には才能なんて無かったんだ。今回のはけっこう自信あったのにな。
戻れるなら、新人賞を受賞する前に戻りたい。小説家を目指す前に戻りたい。
私は担当さん宛に返信のメールを打つ。
『分かりました』
『次のプロットが出来次第、送ります』
それでまた、スマホをベッドに投げ捨てた。
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