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◇
「見つけた」
私は依頼された男を見つけると、銃を構えた。この職についてから、ずっと使っている愛用のライフルだ。
高そうなコートに鞄。ワックスで前髪を上げた髪。いかにもモテそうといった感じのタイプの男に私は「さようなら」と言うと、引き金を引く。何度もシミュレーションをしたお陰か、見事私が放った弾は男の心臓に的中した。
小さくどさっと男が倒れる音が聞こえる。周りには誰もおらず、誰かが悲鳴を上げることも無かった。私は男が倒れるのを確認すると、ライフルを横に置いて手を合わせる。
「どうか安らかにお眠りください」
そう言い残して、足早に銃を片付けた。
男の斜め前方にある廃ビルの屋上。周りには一つも防犯カメラが無く、おまけに人通りも少ないから殺害するには最適なスポットだった。
屋上を後にすると階段を下りながら、耳につけているハンズフリーの携帯電話のボタンを触る。ピッという電子音が鳴った。私はスーッと息を吸うと、向こうからの応答の声が聞こえて声を発する。
「こちらピエロです。任務を遂行しました」
『ご苦労、もう戻ってきていいぞ』
「了解」
私はもう一度ボタンを押すと、また電子音が鳴って通話が切れた。
階段を全て下り切ると、外に出た瞬間桜の花びらが勢いよく舞った。桜吹雪だ。桃色の花びらが台風の如く、空中に舞っている。
「うわっ……」
私は一瞬目を細めると、「もうそんな季節か」と呟く。時間の流れというのは本当に早い。あの日、御堂さんに拾われてからもう3年の年月が経ったのだ。それはつまり、私が殺し屋になって、御堂さんに養われるようになってからもう3年も経つということだ。
「時の流れって怖いな……」
私は短い溜息を吐くと、家へ帰る足を早めた。背負っているライフルのケースと重みは、3年が経った今でも違和感を覚える。
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