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お嬢の一人が家出をした。脱走と行ってもいい。
原因は隣に住み着いた幽霊だ。お嬢はそいつを怖がってた。
そりゃあ脚が無くって宙に浮いた血まみれの骸骨なんて、まともな人間だったら怖いだろう。
だが、お嬢はまともな人間じゃあない。幽霊だ。
幽霊のくせして、自分のことを人間だと思ってやがる。だから隣の幽霊が怖いんだ。
なのにアイツは懐っこくって、ホイホイと気軽に声を掛けて来やがるんだ。
アイツをはじめて見掛けたのは夏の盛りだった。
俺が家の周囲を同居の連中と巡回していた時に、右手を上げて「おはようございます」と、「隣の日比野さん宅でお世話になることに成りました」と、呑気に言いやがる。
アイツなりに、引っ越しの挨拶のつもりらしかったが、家出したお嬢は悲鳴を上げて逃げた。
他の連中はすぐに打ち解けて、住人情報なんかを教えてやがったな。
俺はお嬢が心配で家に戻ったが、案の定押入れの床下に潜り込んで泣いている声が聞こえた。
俺としては、生きている人間は押入れの床下に入り込んだりできないところを突っ込みたいが、何の慰めにも成らないから止めておいた。
それ以来、あのお嬢だけは隣の骸骨を避けて生活していたよ。
俺?お嬢のために骸骨が近付かないように牽制したさ。
だって、お嬢は俺の家族だからな。家族を守るのは俺の仕事だ。
そんなお嬢が居なく成った。
最初は何となく違和感を感じただけだった。
そもそも、家にはお嬢が五人も居るんだぞ。見分けるだけで熟練技を要する。
はじめっから五人居た訳じゃないのに、気が付いたら五人にまで増えていた。
それ以外にも爺ちゃんが三人と、おばちゃんが二人居るんだぞ。しかもおばちゃんとお嬢は同一人物なんだぞ。
幽霊の仕組みなんてものは知らねえけど、何したらこんなに増えるんだ?
いや、脱線したが、要するにお嬢の一人が居ないことに気が付いたのは、違和感を感じだしてから三日後だった。
探さなきゃあなんねえ。
自分を人間だと思ってるんだ、人を避ける理由がない。
うっかり人混みに入ったら、霊感の強い人間に見つかる。
除霊されちまうじゃねえか!
俺は家出したお嬢を探しに行くことにした。
だってお嬢は俺の家族だから。
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