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「美羽、ノートあざっす」
「もう! もっと早く返しなさいよね!」
「小鳥遊!」
俺と美羽が同時に声の方を見ると、眼鏡の奥の目を三角にした学級委員の渡部がいた。
「お前、また高橋さんに迷惑かけてるな!」
「違うよ、渡部くん。迷惑かけられてる訳じゃないの。ノート貸すのは、いつものことだから……」
俺を睨む渡部を美羽は手を振りながら宥めるが、渡部は聞く耳を持たない。
「渡部には、カンケーねえだろ」
「いや、関係ある」
一触即発の空気を止めるかのように、ドアが開いて担任の藤野先生が入って来た。
「ほら、席に着いてー! ホームルーム、始めるよー!」
なおも俺を睨む渡部に釈然としない思いを抱えながら、俺も席に戻った。
家が隣の美羽とは生まれた時からの付き合いで、一緒に遊ばなくなった今でもそこそこ仲は良い。美羽は俺と違って頭がいいから、よく勉強を教えてもらい、時には宿題も見せてもらっている。俺達は、それが当たり前だと思っていた。
そんな俺達に難癖をつけてくるのは、3年で初めて同じクラスになった渡部。俺が美羽のノートを写させてもらったり、宿題を教えてもらっていると、必ずと言っていいほど絡んで来る。
「君は授業中、何をしているんだ」
「宿題は、自分の力でやるものだ」
いちいち正論なのが、さらにムカつく。家が隣だから、ノートを借りたい時は家に行く。だけど、返すのは学校だ。渡部に見つかる前に返したいけど、朝練があるから、どうしても朝は遅くなる。
「なあなあ、ノート見せてくんない?」
「高橋さんに借りないのか?」
「美羽に頼ると、渡部がうるさいから」
「まあ、いいけど」
さっきの社会の時間、気が付いたらチャイムが鳴っていた。真面目に取っていたはずのノートには、いくつもの不可解な線と解読不能の文字。いつもは美羽に見せてもらうけれど、今朝のこともあって、美羽の所には行きづらい。
「お前さ、いい加減授業中に居眠りすんの、やめろよ」
「朝練の疲れが……」
「遅くまでゲームしてただけだろ?」
「やっぱ分かる?」
少し読みにくい文字を解読して写す俺に、佐藤は邪魔にならない程度に話しかけてくる。俺は、顔も上げずに返事をする。
「お前さ、もうちょっと自立した方がいいぜ。来年からどうすんだよ」
ノートを写す手が止まる。
来年、俺達は高校生になる。俺と美羽は、きっと違う高校に進学する。今までみたいに、宿題を見せてもらったり、勉強を教えてもらえなくなる。
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