漸年寺響子が語る初恋のバッドエンド

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 漸年寺(ざんねんじ)響子(きょうこ)は、メガネの奥から冷たい目をぼくに向け、言った。 「ねえ、沢田くん、世のなかには、知らないほうがいいこともあるのよ」 「な……」  彼女の尊大な言い方に、ぼくは口ごもる。本当は、なにをバカなことを、と言い返してやりたいのだが。  いつも、クラスでは地味でおとなしく、口下手な生徒でしかないぼく。  それに対して、相手はクラス委員の漸年寺(ざんねんじ)響子(きょうこ)。つややかな黒髪を長くのばし、メガネをかけた知的な美少女だ。クラスのみんなから「ザンネンさん」と親しみをこめて呼ばれ、頼りにされている。  でも、ぼくから見ると、その目はひどく冷たく、彼女はぼくにとっては「怖い女」でしかない。 「でも……」  それでもぼくは勇気をふりしぼって訊くしかない。 「そんな言い方をするっていうことは、漸年寺(ざんねんじ)さんは、その……知っているんだろ?」  ぼくの問いに、漸年寺の目が伏せられた。  知ってはいるけど、教えることはできない。  彼女の顔はそう言っているように見える。  でもぼくは、どうしても訊きたいのだ。  だって、死んでしまったぼくのガールフレンド、浅沼(あさぬま)ことりに関わることなのだから。
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