2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
こうしてぼくたちは付き合いはじめた。学校一恋愛にうとい男、と言われたぼくにとって、生まれて初めてのカノジョだった。ぼくは舞い上がった。
――沢田、悪いことは言わないから、あれはやめたほうがいいよ。
ことりのことを「あれ」と呼んで忠告してくる男子もいた。ぼくは聞く耳を持たなかった。
ことりとデートを重ねたある日、ようやく手をつないだ。ちょっとしたはずみにその手が、彼女の控えめにふくらんだ胸に触れてしまい、ぼくはあわてて引っこめた。
互いに気まずくて、顔をそらした。
――ごめん。沢田くんだって……したいよね? やっぱり男の子だから。
首をすくめ、冗談めかしてことりが言う。
性欲のかたまりだと誤解されるのが怖くて、ぼくは必死に首を横にふった。
――ううん。ごめん。そんなつもりはなかったんだ。本当だよ?
すると、ことりはうつむきかげんにぼくを見上げた。その目が嬉しそうに見えて、ぼくは自分が正解を言ったものだと思った。
――その……全然したくないとか、じゃなくて、いまはただ、浅沼さん……ことり……さんの、声を聞いたり、たまに笑うときの歯を見たりとか、それだけで、とっても嬉しいから。
つかえながら、やっとのことでそう言った。
自分でも恥ずかしくて顔をそむけていたが、反応がない。
最初のコメントを投稿しよう!