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ふりむくと、ことりが黙って顔を上げ、唇を差しだしていた。
どぎまぎして、ためらって。
でも結局ぼくは、ことりの唇に、自分の唇を重ねた。
ぼくにとってはファーストキスだった。
そして、それが浅沼ことりと交わした最初で最後のキスとなった。
それからまもなく、ことりは死んでしまった。カミソリで手首を切って自殺したのだ。
三日前の晩のことだった。
◇◇◇
「うーん、そうね……」
漸年寺響子は伏せた目をもどし、再びぼくを見た。
「ねえ、沢田くん、あなた、浅沼さんと寝た?」
クラスの優等生の口から出た言葉の意味が取れず、ぼくはぽかんと口をあけた。
「あ、ごめん。つまり、浅沼さんとセックスし――」
「してないよ」
ぼくは首を強く横にふった。
「してないよ、ぼくは、本当に」
「そう……」
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