2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ぼくは、ことりを妊娠させた相手を知りたかった。
ことりには、クラスに同性の友達はいなかったが、それでもクラス委員の漸年寺響子とは、ときどき話をしていたようだった。
だから、放課後に、先生も生徒もあまり通らない、突き当りの特別教室に来てもらって、尋ねたのだった。
そしたら驚いたことに、漸年寺は、ことりが妊娠していたことを知っていたという。ことりから相談されていたのだ。
それなら、と、ぼくは相手の名前を聞き出そうと、食い下がった。
しかし、漸年寺は教えてくれず、
――ねえ、沢田くん、世のなかには、知らないほうがいいこともあるのよ。
という、冒頭のセリフとなったのだった。
ぼくの訊きたいことにはなにも答えようとはせず、やがて漸年寺は、もうこれ以上は無駄だから、と打ち切りを宣言した。
そして別れぎわに、こう言ったのだった。
「沢田くん、わたしからあなたに、これだけは言っておきたいの。浅沼さんにとって、沢田くんは、初めて好きになった男の子だった。あなたは、まちがいなく彼女の初恋の人だったのよ」
最初のコメントを投稿しよう!