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ぼくがうなずくと、
「ただ、彼女には困った性質があって……。頼まれると、断れないのよ。相手のことを、特に好きでなくても」
何の話かといぶかるぼくに、漸年寺は考えながら、ひとつひとつ言葉をつないでいく。
「お金をもらって、ということじゃないのよ。博愛精神、というのが一番ぴったりくると思う。年頃の男の子は、どうしたって、したくてたまらないでしょう? お願いされると、かわいそうになって相手をしてあげた」
なんの話か、しだいにわかってきて、ぼくは背筋に寒気を感じはじめた。
「え? まさか……それって……?」
漸年寺は黙ってうなずいた。
自分の声が震えるのを抑えることができない。
「で、でも、そんなに何人も……?」
また、漸年寺がうなずいた。
足元の地面が、すっと抜けてしまったような気がした。
「じゃ……じゃあ、ことりを妊娠させた可能性があるのは……」
ぼくは絶句して、漸年寺の背後に立つ男子生徒たちを見まわした。
クラスの男子全員が、なにか痛ましいような目で、黙ってぼくを見つめるばかりだった。
(了)
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